17時にJR天馬駅にて。自分の服装を相手に伝え、声を掛けてもらうのを改札付近で待っていた。想像以上に背の大きかった笹島さんとナイスショップスーのある孔雀ハウスへと向かった。SNSでの付き合いを人生の出会いに勘定するかは別として、彼と私は初対面ではあるけれども、違和感もなくスッと話すことが出来たのは「好きなもの」「信じているもの」という何よりも人と人を繋ぐ媒介がそこにあったからで、なんとも言えない感動があった。SNSを経由して知り合った人と会うのが、私にとってはこれが人生で初めてだった。孤独な青春を送ってきた、が、SNSでの輪を広げたいのではなく、目を見ながら、直接話すことの出来る、純粋な「友人」がそこに欲しかった。孔雀ハウスはまるで漫画の世界に出てくるような古い木造の集合住宅だった。ここにアートショップがあるとは思えなかった。私が玄関についたとき、ひとりの老人が1階の共用スペースにて朱に染まっていく大阪の街の空気を肌に感じつつチルアウトしていた。軋む階段を上っていったその先、物置小屋のような白い扉があって、「ここです」、と。嘘だろうと思ったところに本当にナイスショップスーがあった。家賃は3万円ほど、電気・水道はある、トイレは共用、お風呂は近くの銭湯を利用しているそうだ。壁に並ぶ無数のカセット、レコード、CD、ZINE etc。お店でありながら彼の根城だった。布団があった。「ゆっくりしていってください」。冷蔵庫から取り出した缶ビールをふたつほど机に置き、向かいの椅子に腰をかける。自然と会話が始まった。大阪のこと、東京のこと、山口のこと。日々の生活のこと、インターネットのこと、音楽のこと、アートのこと。すべての話題が滑らかに繋がっていた。時折訪れる沈黙の向こうで近くを走る電車が放つ騒音もここでは心地がよかった。そうか、私はここに来たかったんだ。現実にて口にすることがなかったミュージシャンやアーティストの名前を目の前にいる相手が聞き返してくることなくレスポンスする、この瞬間が、ずっと私は欲しかったんだ、と。数時間があっという間だった。途中で帰宅してきた笹島さんの彼女と3人でたこ焼きとカレーを食べた。なんでもない自家製のたこ焼きとレトルトのルーを鍋で温め具材を足したカレーだった。美味しかった。笹島さんに1万円を渡し、1万円分のおすすめの作品を買わせてくださいとお願いした。彼が嬉しそうな笑顔を浮かべながら「これがいい」「これもいい」「これ知ってますか」「これもついでに」と手渡してきた”1万円分”はどう考えてもその量を超えていた気がする。時刻は10時ごろ。この場所に行こうと思ったときに気軽に行くことができる生活。とにかく羨ましかった。「さようなら」「また、会いましょう」。8月、東京で人生で初めてライブをする。その2歩目として、秋か冬に大阪で再会することを約束した。「天馬駅まで送ります」。街はすっかりと暗くなっていた。赤提灯が美しく光る、下町の風情が漂う天馬を背景に、改札口にて彼とその彼女に手を振った。ひとり電車に揺られ、無性に寂しくなったが、白いビニール袋に詰め込まれた”1万円分”がそれを紛らわせてくれた。必ず、また、会いましょう。