
ノイズはいつまでも終わらない。
ジェームス・ブラウン誕生の地でもあるジョージア州オーガスタで生まれ育った24歳のプロデューサー・Joragonを紹介。人口20万人弱と決して大きな都市とは言えない街から届く壮大なポスト・アポカリプス・ノイズ・コラージュの50分を、久方ぶりに更新するSim Mixにて皆さんにお届けする。
彼の音楽的バックボーンは非常にユニークである。まず、ヒップホップ・グループのWu-Tang ClanとN.W.Aが存在として大きいと言う。その次に続くのがプランダーフォニックスの提唱者でマイケル・ジャクソン等のポップ・ミュージックを痛烈に批判したJohn Oswald、そしてジャパニーズ・ノイズのリヴィング・レジェンドMerzbow、2010年代のクラブ・ミュージック像を創り上げたアイコンTotal Freedom、EDMからハードコアまでを通過したキメラを製作しているCHAi-T、オーガスタのローカル・ミュージシャンたち、ときて私からも影響を受けているらしい。数年前にDJWWWWの音楽を聴いたときに自身の創作に大きなインスピレーションを与え、実行したとのこと。というか、こうした面々を並べながらも大好きな曲はMinnie Ripertonの名曲「Perfect Angel」だったりと掴めないところがある。
Wu-Tang ClanやN.W.Aときて、彼のスタイル(例:映画やビデオゲームのSci-fiなサウンド・エフェクトをサンプリングする等して、クラブ・ミュージックに組み込んでいく)からすると、てっきり私はChino Amobi周辺を影響元として挙げるのだろうと思っていたし、事実、それは間違ってはいないのだろうが(影響を伺った際には彼は前置きで「A lot,」としている)、真っ先にアカデミックなマイクロ・サンプリングのJohn Oswaldを挙げたのは意外だったし、何ならそういった人物からは距離を置きそうな排他性があるのがChino Amobiらの佇まいなので、どうもJoragonという青年が放つ、現行の(この呼び名はどうかと思うが)Deconstruction Club的なスキームの感性と、彼の母国US伝統の、LAFMS的なノイズの脈流の間に座しているような、まさにハイブリッドといえるコラージュ・ミュージックの現在を伝えるこの禍々しい音源が私には新鮮に映ってならない。Nurse With Wound、DJ Yo-Yo Dietingなどのファンも唸らせるだろうし...。

この手の”ごちゃごちゃ”は彼がパイオニアであるわけではない。NmeshやMukqsといった面々が発表してきたミックスや作品に共振するところは多いにあるだろう。大前提としてノイジーなコラージュにはいつの時代にも取り組まれてきた立派な歴史がある。しかし、そこで選択される素材は絶えず更新されていくわけで、24歳の若者が発信する、このあまりにも歪でメタメタにカットアップされた膨大な情報の数々は至極、現代的であるし、この10年の決算セール的であるし、これからの10年に向けての解放運動のようにも思える。彼のSim Mixをじっくりと通して聴くのは武者修行の域だが、その先にあるカタルシスは開けた地平を描くわけだ。人はなぜノイズに惹かれるのか。いつまでも終わらないこの永遠のテーマをJoragonと共に歩み考えてみよう。
Joragon