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'想いで100景' by $ega & The Rainbow Streets (Noumenal Loom/2017) |
スーさんにこのアルバムのレビューをしかもsimに書いて欲しいと頼まれ、筆を手に取るまで多くの時間がかかった。それほどにこのアルバムには多くが包まれ、繊細で、絶妙な感覚で存在している。
生活の中から出てくる音楽というのは素晴らしい。生活音をトリミングしたということではなく、過ごしている生活を培い育ててきた感覚でろ過させ、作品に落としこむということだ。その感覚が、どんどんと大切になっていくだろうし、訪れ続ける様々な氾濫から身を守る数少ない術である。また、表現の楽しさを作り手が一番享受できる手法とも言える。
このアルバムにはそんな楽しさが詰まっている。バリエーション豊かなバンドサウンドであるにもかかわらず、常に一人の人間の生活がにじみ出ている。すべての曲から、作り手の過ごした時間、空気、そして想い出が伝わってくる。どんな音を使っているかだとか、ビートがどうだとか、何のサンプリングだとか、このアルバムを語る上でほぼ必要のない話だということは、アルバムを通して聞いた時の自分の感覚と素直に向き合えば、すぐわかるはずだ。そういうと、レビューが難しくなっちゃうけど。でもそう。
彼は、サンプリングを主として曲を作る。でもその範囲が音に限らなくなっていることは周知の通りだ。彼の作品は毎回「サンプリング」というものの在り方を広げ変え続けている。先述の「生活」というものもその範囲に含まれ大いに機能しているのは、このアルバムが証明している。
このアルバムはもはや、「振る舞い方」に近い。それが素晴らしい人は好きだ。先日に共演させて貰ったジェフウィッチャーはその良い例で、彼が名刺のように己の作ったアルバムを渡してきた時には、今の彼のやっていることと併せて本当に美しいと思った。作ったものが自分の体のような、そんなしなやかさがあった。この作品もそう。
僕は彼を「音楽家」だとずっと思い続けている、そして尊敬している。言葉、映像、そしてもちろん音も。いろんな「表現」が重なり合ってその言葉の次元に足を踏み入れられるし、日本の若い人でやっている人は本当に少ない。この豊かで尊い言葉を目指すことは、すごく大変かもしれないけど、絶対に楽しいし、価値があると思う。
2017年にこのアルバムが生み落とされて本当によかった。これからそれを見つける人もみんな似たような思いをすることであろう。環状線グルーヴがきこえる。
https://noumenalloom.bandcamp.com/album/ega-the-rainbow-streets-100
○ woopheadclrms http://woopwoopwoop.starfree.jp/