12/15/2018

2018年12月8日・9日 /// Stu Miley - Stu Miley EP [Wasabi Tapes]

2018年12月8日
toiret statusの友人であるkazuki shinoharaさんが初めて主催するイベント「Re:」に出演するために午後休を取得し、在来線で開催地の防府市へ。防府市は私が生まれ育った街で、瀬戸内海に面する人口10万人程度の寂れた地方都市だ。一番の繁華街であるはずの防府駅付近でさえイオンがある以外は何もない。背の低い古びたビルが申し訳程度に並ぶも百メートル程度でそれは途絶え、その向こうには山々が見える。市で一番の観光名所である防府天満宮からまっすぐと伸びた街道には商店街があるが、9割以上はシャッターを閉じていた。就職と同時に街を捨てたが帰省のたびにこの街が乾いていることを痛感する。本当に何もないな、と。しかし、「Re:」が開催されたBAR印度洋は西日本では有数のアンダーグラウンドな箱だ。過去に出演してきたミュージシャンを挙げるときりがないが、10年ぐらい前にLightning Boltがツアーで寄るぐらいには信頼されている。そしてそこに当時高校生の自分と20歳ぐらいのtoiret statusが観客として同じ空間にいたことを知ったのは2018年の冬の話だった。運命というものを信じてよいのでしょうか。
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「Re:」はshinoharaさんが最も愛を寄せる東京のユニットdetune.、同じく東京よりメトロノリ、その他の短編ズでも活動する福岡のSSW・森脇ひとみさん、地元勢としてtoiret statusと私といった具合のキャスティング。自分が生まれ育った街でこういった面々と並ぶことができるのが幸せだった。僭越ながらdetune.と森脇ひとみさんは初めて知ったのだけれども、後述するが彼らも素晴らしかった。そして、何より、初めてメトロノリのライブが見れることが嬉しかった。彼女のことを知ってから数年の月日が流れており、ようやくだったので。
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最近、自分が偏っているだけでしかないが、激しい音楽に多く耳が触れていたので、その状況に少し疲れていた身としては、今回のメンバーはゆったりと落ち着くことが出来そうだなと期待していた。そこでも改めて自覚するのが自分はクラブ側の人間ではないということ。どう偽っても自分はクラブらしいかっこよさのようなものは備わない。これは決別の宣言ではなく、人の属性の話として。私はどこまでいっても、結局は、街ではなくベッドルームの人間なのだと思う。その内省さが時代に沿う必要はないはずで、純粋な自分はそうだから。 ▶︎1
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森脇ひとみさん。アコースティックギター、iPhone、マイクでのライブ。アコギの弾き語りやiPhoneから直接の出力でのラップ(?)などがゆったりとしたテンポで進む。西日本にはナフコというホームセンターが展開しているのだが、そのナフコの、「店内放送の歌の続きを唄います」とナチュラルに面白い口上があったり、ラップなのか不明だったポップソングが終了したあとに「いまのはエミネムという曲です」とオチをつけたり、エンヤの「ワイルド・チャイルド」の日本語詞カバーを熱唱したり、とにかく微笑ましかった。(メトロノリとdetune.含み)1曲ごとに拍手が起こるライブというのが数年ぶりだったので新鮮。セーターの色がよかった。
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toiret status。彼と共演するのも5回目ぐらいだろうか。「YamaGucci 2」を完成させると言いながら今年も夢叶わず。Noumenal Loom側はアートワークを既に制作済みなのでいよいよ怒られるのではないかと心配している。2019年こそ...。ライブについて:彼のライブはとにかく変だしポップだし踊れる。更にはあの手の音でありながらバリバリに自分も唄うのが何より強い。定番の流れを挟みつつ、トランス、トラップ、メタルなどを横断する新機軸も披露。それでいてtoiret statusというパッケージを逸脱せずに統一感のある世界を提示。印度洋の雰囲気も相俟って圧巻のプレイだった。彼には行くところまで行ってほしい。
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▶︎1 と、いう意識もあり、今までで初めて座ってプレイしたい旨を主催側には伝えた。照明も出来る限り落として、観客にも座ってほしいと。私は人を踊らせることが出来ないのだし、リラックスして聴いてほしかった。Forestlimitとはまったく違う内容のセットを組んでいて、隙間を作ろうと意識した。個人的に2018年で最も満足のいく内容だった。観客の意識もForestlimitとは違っていたので、互いの姿勢が合致したというのもあると思う(ForestlimitのK/A/T/O Massacreは「パーティー」、BAR印度洋のRe:は「ライブ」の違いだった)。今後についても積極的にDJやライブをしないのは絶対に変わらないけれど、もしその機会があるときに自分がどうしたいのか、どう表現したいのかに納得がいく時間だった。となると箱の仕様によるCDJからは卒業したい。憧れのカール・ストーン。彼はラップトップ1台を座りながらタッチし、それをライブとする。私もそれでいい。
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メトロノリ。彼女のことを知ったのは5年前くらいで、以来、彼女の作品を聴き続けている。MadeggのKazumichi Komatsuとメトロノリとは同い年で、そういった縁(?)もあり、彼らのことは何かと気になってしまう。やはり、まったく同じ時間を生きて来た人物の表現というのは、そもそも二人が年齢がどうとか関係なしに有力なアーティストであるというだけなのだが、興味があるので。ライブについて:メインの機材はキーボード、SP-404。SP-404でトラックを流しながらそこに音を重ねていき、唄う。彼女の楽曲は複雑だし、ボーカルの配置が独特(メロディとボーカルのパーセンテージが限りなくイーブンな人だと思う。比喩するならば「声が曲に溶け込んでいる」。)なので、その繊細な世界がライブでどう表現されるのか気になっていたが、それは杞憂だった。とにかく再現の妙と生の説得力が凄かった。水彩画のように滑らかなアンビエンス、抽象と具体のポップミュージック、「実験」の意識のないエクスペリメンタルなビート、歌声。あらゆる要素が幾重にも重なり、それらの比重が曲ごとにナチュラルに変わっていく。彼女自身が嫌うように彼女の音楽はカテゴライズできないし、する必要性を感じない。Foodmanにも通じるのだが彼と彼女は音が彼らそのものだ。裏表のない、人(ニン)の音楽。地元という環境も前提として最高にエモーショナルだった。
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detune.。キーボードとベースのユニットで、プロのミュージシャン。前述の通りに僭越ながら彼らのことを存じ上げなかったのだが、やはり実績あるプロだけあって純粋に技術が段違いだった。知久寿焼や原マスミに影響を受けているようなボーカルで、全体的にゆったりとした曲調。いい意味で眠たくなるライブ。しばらくこういうライブを経験してなかったなぁ、と。detune.の、という狭義の意味でなく全般的な「コンサート」に行きたくなった。公会堂とかでオペラやクラシックを経験したい。
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全5組。全員持ち時間40分程度(detune.はトリかつプロだし当然他より長め)。ダンサブルなtoiret status以外は全員が腰掛けながらの鑑賞だった。繰り返すが本当にこういうライブが久しぶりで、体力気力共に途切れることがなく、情報量が前向きに少なくて、どんどんと音に没入していく感覚。全員が方向性が違うのに脳の切り替えが必要なく、山口という超がつく田舎のシャイな人が多い土地柄、アンダーグラウンドなBAR印度洋という箱の環境もあったのか、イベント全体の雰囲気が心地よかった。自分の発見と納得もあり、メトロノリのライブを見るという願いも叶い、個人的には2018年ラストを締めくくるに最良の時間だった。主催のkazuki shinoharaさんのホスピタリティ溢れる精神がそれに寄与していたことは言うまでもなく。とにかくお疲れ様でした。

2018年12月9日
喫煙者の自分にはタバコと思い出は紐づくことが多く、この二日間で印象的なそのタイミングがあった。非常に冷え込んだ空気のなかで見る、慣れ親しんだはずの地元の風景が、また新鮮に映る。


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以前より取り組んでいたStu MileyのEPが完成したので最後に収録した「Humanity」のビデオを制作した。リナチョが撮影してくれたK/A/T/O Massacreでの映像と、kazuki shinoharaさんが撮影してくれたRe:での映像を使用した。私を呼んでくださった加藤さん、shinoharaさん、改めてありがとうございました。初めてお会いした方も、久しぶりにあった方も。また来年、よろしくお願いします。

Stu Miley - Humanity (Official Music Video)