11/02/2016

'Thumper' by Drool

'Thumper' by Drool

プロヴィデンス在住のアート・デザイナーBrian Gibsonとソウル在住のプログラマーMarc FluryからなるDroolが”リズム・バイオレンス”を標榜する「Thumper」を発表し、2016年に衝撃を与えている。



”リズム・アクション・ゲーム”と聞き私たちが思い浮かべるものは”リズムを楽しむ”という享楽的な側面が強いように思う。しかし、それはステレオタイプな見方だったと考えを改めなければならない。「Thumper」は”リズム・アクション”の新時代到来を告げるマスターピースである。彼らは”リズム・バイオレンス”、その言葉通りのものを作り上げた。

「Thumper」にあるのは圧倒的な”スピード”と”身体性”。メタリック・ボディに仕上げられた甲虫類が本作の主人公、プレイヤーなのだが、彼に与えられる役目はただひたすらに曲がりくねったレールを走ることだけ。中に人類が搭乗しているのかどうかは知らないが、この”生物”は疾走することを拒否できないし、延々と宇宙のサイケデリアを進まなければない。「R-TYPE」の背景にあるストーリーのような不条理をも思い浮かべるが、「Thumper」には言葉で語られるものは一切なく、ストーリーの提示なんてものは一切していない。しかし、この甲虫は、広大な孤独の空間を、轟音で響くドラムに身震いしながらレールの向こうに構える異物を取り除いていくという宿命を受け入れるしかないのである。甲虫が奏でるのはダンス・ミュージックの色気ではなく、自動生成、鳴らせざるを得ない”グルーヴ”であり、そこに同期することを強く求められた結果の無機質なものだ。しかし、その成功の報酬として解放される光弾は何よりも気持ちがよく、無限に続くように思える螺旋に没入してしまうのだ。

本作で求められるのはチュートリアルを必要とするような手間のかかりものではなく、無駄を削ぎ落としたシンプルな操作だけだ。しかし、シンクロした映像と音響が演出していくエクスタシーの加速は一度始めると辞めることが出来そうにない。そこで奏でられる”音楽”は異世界、ゲーム、SF的な音と我々人類にDNAレベルで刻まれたドラミング、リズムの高揚感という関係性を見事に打破しており、高次元なものとして融合させている。私はここで、Angel-HoやAir Max '97、M.E.S.H.らを思い浮かべた。







彼らはミュージック・コンクレートの手法を用い、スラムで響く銃声や犬の鳴き声、ガラスの割れる音、サイレンなどの”現実世界”と、Sci-fiなヴィデオゲームや映画からサンプリングしたような効果音などの”異世界”をシームレスに紡ぎ、”クラブ・ミュージック”としてそのフォーマットをアップデートし続けている。彼らに共通するのは”異世界、未来的なのに生々しい”ということだ。この感覚に「Thumper」は近い。これらを私はシンクロニシティのように思えて仕方がない。