「アートが勝手に育つ農園」というコンセプトを持って立ち上げられたウェブサイトFxAxRxMから2016年にbroken recorderという素晴らしいフリーダウンロードアルバムをリリースした、自身の無垢な想いや発見をシンプルにとどめたような素朴なメモのような音楽・美術作品を制作するcy fan。そのサブ・プロジェクト的立ち位置にある音楽プロジェクトが今回紹介するop!w。
(ちなみに私は、先日発見したサウンドクラウドアカウントでこのプロジェクトの存在を知ったのですが、友人によると3年ほど前にもこの名義は存在したそうで、今作がこのプロジェクトの初作品というわけではないようです。)
無機質な音の響きを直感的に形にしたようなcy fan名義の音楽に比べ、op!w名義のこのアルバムはより感情的で、特別な思い出や大切な物事を音という形で作品の中に詰め込んだような、儚く愛おしいメロディが心を打つ美しい作品です。
「これらは最後の物たちです、と彼女は書いていた」
と始まる同タイトルの小説(ポール・オースター著「最後の物たちの国で」)や、今作で描かれている物語についてを私はほとんど何も知らないのですが、このアルバムの中で描かれた風景はそんな私の中にも当たり前に存在し、これまでに自分の身に起きた様々な出来事はすべて特別で大切な出来事だったことを実感させてくれました。
「昨日ここにあったものが、今日はなくなっている。今日はたしかにいたひとが、明日にはいなくなる。」唐突に幕を下ろすside - bののちに始まる静寂が、この作品の出発点なのかもしれません。