2014年8月、gamescom 2014にて新作ホラー・ゲーム『P.T.』が発表された。構成は大まかに10メートル程度の曲がり角のある暗い廊下歩くだけ。至極シンプルながらその完成された恐怖演出はたちまち話題となり、2014年のベスト・ゲームに挙げる声も少なくなかった。
P.T. - FULL Walkthrough PLAYTHROUGH PlayStation 4 HD 1080P | No COMMENTARY
後に『P.T.』は、先日、KONAMIを退社し新プロダクションを立ち上げた小島秀夫と『パンズ・ラビリンス』等で知られるメキシコ人映画監督ギレルモ・デル・トロがタッグを組み制作中の、『サイレント・ヒル』シリーズ最新作『SILENT HILLS』のティーザー的な位置づけの作品だということが判明した。しかし、その後は知られている通りに『SILENT HILLS』の開発中止がアナウンスされ、『P.T.』も再ダウンロードが不可能となり、まさに”幻の作品”となってしまった。そして、小島秀夫のKONAMI退社に続く。世界中のファンがKONAMIに失望し、小島秀夫には『SILENT HILLS』開発再開への要望が多く集まっている。
ティーザーでありながら『P.T.』が遺したホラー・ゲーム新世代の演出の衝撃は凄まじく、本作にインスピレーションを受けた映画、ゲームなど様々な分野のクリエイターがその遺伝子を継承しようとしている。
Allison Road - Prototype Gameplay
『アバター』等でコンセプト及び環境アーティストとして映画製作に関わってきたChris Keslerが、『P.T.』配信2日後に制作に取り掛かったという『Allison Road』は、現在、6名と少数構成の新興インディー・スタジオ〈Lilith〉が開発中の、”ポスト『P.T.』最右翼”と言える期待のタイトルだ。Unreal Engine 4で描かれる不気味なロンドンのタウンハウスを舞台に、記憶喪失の男性が謎を解明していくというコンセプト。2016年の発売を目標としている。どこにでもありそうな”家”という環境ながら、どんよりとした重たい空気が広がり、静寂が何よりも恐怖を増幅させるのはまさに『P.T.』。後ろを振り向くことを躊躇うこの感覚は、ジャパニーズ・ホラーのお家芸と言える演出であり、ここを『Alison Road』は上手く表現できている。
※その後、開発中止がアナウンスされたが再開となった。
Layers of Fear Gameplay Preview - P.T. Inspired Psychedelic Horror
〈Bloober Team〉が開発したサイケデリック・ホラー『Layers of Fear』は、画家の精神に入り込み、絵画が完成するまでの間に何があったかを探索するという内容。現実と虚構の間をトリップする感覚は『P.T.』にて廊下が赤く染まったパートで脳震盪を起こしたように視界がボヤける部分に通じるものがある。
The Peterson Case Teaser Trailer
3人構成のインディー・ディベロッパー〈Quarter Circle Games〉が手がけた『The Peerson Case』は、ロズウェル事件で知られる1947年のアメリカ、ニューメキシコ州ロズウェルを舞台に、忽然と姿を消したPeterson一家を追う探偵Franklin Reinhardtを描いたホラー・アドベンチャー。プレイヤーは一家が住んでいた家やその周辺を探索し、パズルを解きながら何が起きたのかを知っていく。この作品も『P.T.』同様に日常生活の範囲に潜む恐怖の”何か”を描いている。
ポスト『P.T.』の共通項は”静寂”と”日常の延長線”だ。”ありえるかもしれない恐怖”をしっとりと演出する。精神の内側、裏側からジリジリと蝕まれるような感覚。これらに戦闘要素は無いように思われるし、銃や超能力も存在しない。大量のゾンビが大きな音をたてながら登場することもない。冷えた身体に伝う汗の、あの嫌悪感が永遠に続くとでも言おうか。この”ホラー新世代”はグラフィック技術の向上が助けたものであり、UnityやUnreal Engineなどパブリックな製作エンジンの存在は無くてはならないだろう。数人でのゲーム開発が活発になり、インディー・シーンがここまで大きくなったのはアートの拡張と言っても過言ではない。今後、ますますゲームは面白い領域に突入するはずだ。
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N. BRENNAN 2014
N. BRENNAN 2015
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○ Kenji Yamamoto https://www.instagram.com/exilevevo/