11/24/2016

'MY WAY' by 星川あさこ

'MY WAY' by 星川あさこ

ナイスショップスーが主催するレーベル「Very Gois」。アートや音楽の可能性を追求する店舗同様、これまでもコンピレーションを通じ、音の多様なあり方を提示してきた彼らだが、その彼らが次にリリースしたのは一見音楽とは縁遠くさえ見える、岐阜在住のアーティスト、星川あさこの祖父の遺品であった。



「MY WAY」と名付けられたそのカセットはその名の通り、ジャズのスタンダードナンバーである「My Way」を集めたものだ。持ち主が亡くなった今となっては何故「My Way」をこれだけ集めていたのか、我々が知ることはできない。しかし、ジャズのスタンダードナンバーに耳を傾けながら、リスナーはその分からないはずの「何故」やこのカセットが歩んだ歴史についても耳を傾けることになる。

元の歌い手であるFrank Sinatraの歌唱とともに被さるヒスノイズの「音色」。録音時間や開始場所もバラバラな「My Way」のバリエーション。合間に入り込む自然音や足音、拍手、人の声。B面に収録されたVikki Carr。そして、再び繰り返される「My Way」から突如始まるアイヌ語講座。時期も時間も音もバラバラなこれらが「My Way」を手掛かりにして一つのまとまりとして成立したのはひとえに祖父の思考の流れをそこに感じることができるからだろう。

 いま船出が 近づくこの時に ふとたたずみ 私は振り返る 遠く旅して 歩いた若い日よ すべて心の決めたままに 愛と涙と ほほえみに溢れ いま思えば 楽しい思い出を 君に告げよう 迷わずに行くことを 君の心の決めたままに 私には愛する歌があるから 信じたこの道を 私は行くだけ すべては心の決めたままに 愛と涙と ほほえみに溢れ いま思えば 楽しい思い出を 君に告げよう 迷わずに行くことを 君の心の決めたままに 私には愛する歌があるから 信じたこの道を 私は行くだけ すべては心の決めたままに

こう、夭折したジャズシンガーである中島淳が訳した「My Way」の歌詞は、ある人が人生の終わりを迎えた時を想像しながら、この人生は決して間違っていないと自身や聴き手を肯定する美しい歌詞である。そして、この遺されたカセットを聴く我々もまた、彼女の祖父やこのカセットの音色が自分に届いた時間の厚みに思いを馳せながら、きっとこの人生を肯定できるような温もりをそこに感じるはずなのだ。