11/27/2016
+you / xccg ~ 'buranko' ( via A Q U A E / 2016 ) ~ +you side (full)
人生で初めて”作品”を形にしたのは、ポルトガルはコインブラという美しい街に暮らすjccgが主宰するレーベル、Exo Tapesからリリースした、私にとって最良のプロジェクトである+youの1stアルバム「World Tour」だった。
私が+youとしてWasabi TapesにてBurialやAwesome Tapes from Africa、ハイライフ・ミュージシャンなどの音源をスクリューさせドローンとして楽しんでいたところに、jccgから一通のメールが届いた。”君の作品をリリースしたい”。
当時、私にとっての居場所はWasabi Tapesのバンドキャンプとタンブラーしかなかった。Wasabi Tapesをレーベル兼ブログとして機能させ、自分が作りたい音楽、自分が聴いている音楽を陳列させるお遊びをマスターベーションよろしく続けていた。初めて外部から声をかけてくれたのはQuantum Nativesの連中だった。そこで発表したのはDjwwwwとN. Brennanのミックステープであり、もちろん、それも私にとってはターニング・ポイントなのだが(J.G. BiberkopfやSentinel等と親交を深めるようになるきっかけだったと思う)、やはり自身の音楽がCDなり何なりと手に触れるモノとしてパッケージされる体験はあまりにも感動的な出来事で、たとえそれが数十部しか生産されない自己満足のミクロな世界であろうと、ele-kingの三田格がそれを批判しようと、私が”ミュージシャン”としての一歩を自覚した瞬間だった。ポルトガルから日本へ。郵便物が自宅に届き、開封し、そこに敷き詰められた「World Tour」を手に取った時、泣きそうになった。”私の音楽は独りではなかったんだ”、と。
彼ほど”漂う空気”を澄んだものに整えることに長けた人はいない。Exo TapesとA Q U A Eは世界でもっとも美しく透明なレーベルである。”規模が大きい”ことのイコールが”世界”ではなく、静かに、小さく繋がる”世界”の尊さを教えてくれたjccgが好きだ。そんな彼とのスプリット「buranko」は、「World Tour」で”世界”を見てきた私がjccgに送るラブレターである。世界でいちばん、彼に会いたい。
11/26/2016
11/24/2016
'MY WAY' by 星川あさこ
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'MY WAY' by 星川あさこ |
ナイスショップスーが主催するレーベル「Very Gois」。アートや音楽の可能性を追求する店舗同様、これまでもコンピレーションを通じ、音の多様なあり方を提示してきた彼らだが、その彼らが次にリリースしたのは一見音楽とは縁遠くさえ見える、岐阜在住のアーティスト、星川あさこの祖父の遺品であった。
「MY WAY」と名付けられたそのカセットはその名の通り、ジャズのスタンダードナンバーである「My Way」を集めたものだ。持ち主が亡くなった今となっては何故「My Way」をこれだけ集めていたのか、我々が知ることはできない。しかし、ジャズのスタンダードナンバーに耳を傾けながら、リスナーはその分からないはずの「何故」やこのカセットが歩んだ歴史についても耳を傾けることになる。
元の歌い手であるFrank Sinatraの歌唱とともに被さるヒスノイズの「音色」。録音時間や開始場所もバラバラな「My Way」のバリエーション。合間に入り込む自然音や足音、拍手、人の声。B面に収録されたVikki Carr。そして、再び繰り返される「My Way」から突如始まるアイヌ語講座。時期も時間も音もバラバラなこれらが「My Way」を手掛かりにして一つのまとまりとして成立したのはひとえに祖父の思考の流れをそこに感じることができるからだろう。
いま船出が 近づくこの時に ふとたたずみ 私は振り返る 遠く旅して 歩いた若い日よ すべて心の決めたままに 愛と涙と ほほえみに溢れ いま思えば 楽しい思い出を 君に告げよう 迷わずに行くことを 君の心の決めたままに 私には愛する歌があるから 信じたこの道を 私は行くだけ すべては心の決めたままに 愛と涙と ほほえみに溢れ いま思えば 楽しい思い出を 君に告げよう 迷わずに行くことを 君の心の決めたままに 私には愛する歌があるから 信じたこの道を 私は行くだけ すべては心の決めたままに
こう、夭折したジャズシンガーである中島淳が訳した「My Way」の歌詞は、ある人が人生の終わりを迎えた時を想像しながら、この人生は決して間違っていないと自身や聴き手を肯定する美しい歌詞である。そして、この遺されたカセットを聴く我々もまた、彼女の祖父やこのカセットの音色が自分に届いた時間の厚みに思いを馳せながら、きっとこの人生を肯定できるような温もりをそこに感じるはずなのだ。
11/19/2016
11/08/2016
SIMS: ALMA
先日、Pink QueendomからリリースされたALMAによるEP「Peach」を購入した。綺麗に設えた、桃色に染まるベッドルームのふかふかした心地よい狭小具合と、棘のあるノイズの塩梅に前向きな違和感を覚えつつ、作品を通して漂う、どこか儚い空気感にALMAという人物の背景を勝手に窺い見た。私は彼女のことを知りたくなった。一体、どんな人なんだろう。今年のベストソングのひとつとも言える、「Peach」の最後を飾る楽曲「I'm a lonely house wife」の永遠に続く美しさに耳を預けながら、彼女に対する幾つかの質問を作成した。
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−−−まずは自己紹介をお願いします。年齢、生まれ育った場所、いま暮らしている場所など。
ALMA。
地方都市で育った。深夜の海にはヤンキーみたいなのがよくいる。爆音の車が走る。夏はサンオイルのにおいと、生ぬるい潮風が地元の駅に漂う。
今は、友人と郊外で暮らしている。高齢者が多い。とにかく静かで、恐ろしいくらい。駅前のコンビニはお酒も煙草も売ってない。土日は駅前でお祭りがやってたり、デイケア施設の催しものがあったり。市の公共施設の高層の窓からは沢山の団地が見える。
−−−ALMAという名前はどういう経緯で名乗るようになったんでしょうか。
自分の本当の名前。
−−−どんな幼少期を過ごしましたか。
大人に甘えられない子供だった。
父親に遊んで欲しくて、でもうまく伝えられないから手紙を書いてた。結局渡せなかったけど。
−−−思春期にのめり込んだものを教えてください。
音楽。オンラインでの恋愛ごっこ。
−−−人生最高の日はどんな日でしたか。
まだ来てないかも。でも、自分と心の中に流れてる音楽が似てると思う人に出会えた時は本当に嬉しかった。毎日が最悪だけど、最高だとも思う。
−−−逆に最悪だった日について。
言いなりになることを押しつけられた夜。私は自分の心と体を守るために必死で逃げた。
−−−お気に入りのお店を幾つか紹介してください。飲食店でも、服屋でも何でも構いません。
あまり店に行かない。近所で最低限の生活用品しか買わない。物を増やしたくない。お金が流れていく先のことを考えると、あまり買い物ができなくなる。本当に必要なものを吟味するようになるから、このスタイルを続けたい。
−−−好きな音楽
示唆に富んだ音楽に感銘を受ける。
−−−好きなファッション
気品を感じる服。
−−−好きな時間帯はいつですか。そして、その時、よく何をしていますか。
夜になるまえの青い時間。何もしないけど、小学生の時の感覚をふと思い出したりする。
−−−楽曲の制作環境を教えてください。作詞・作曲の方法、使用機材、録音など。
家電量販店で買った小さいシンセとiphone。音楽を作るときのことはよく覚えていないけど、音楽と詞の間に余白をもたせる。詞を書くときは、音のイメージを現実空間に落とすような感覚。tumblrで見つけた画像や広告から引用したりもする。録音は部屋で。
−−−心の底から素敵なヘアースタイルだと思います。髪を短くしようと思ったきっかけはなんですか。
長い髪だと仕草がいわゆる"女の人"っぽくなって、それが内面化されるのが自分にとって不自然なことだと思い始めたから。もう長い髪は必要ないと思った。いつも自分で剃ってる。
−−−私はあなたの裸体を直接見たことはありませんが、写真で確認をし、非常に美しいと思いました。あなたは自身の裸体を解放することに躊躇いがないように思えるのですが、多くの人はその一枚を取る勇気がありません。その行動はどのような意志に基づいているのでしょうか。
何も纏うものが必要ないと思ったから。私の音楽の中に、様々なものを纏わされてしまった人たちが登場するから、表に立つ私は、彼ら・彼女らが解放された後の姿を表現したいと思っている。スポットライトが当たるのは私ではなくて、私が演じてきた人たち。纏うことよりも、内側から装飾性を滲ませられる人間になりたい。
−−−「Sweetie」と「Pink Queendom」について教えてください。そこにある哲学、美学を知りたいです。
「Sweetie」は、パッケージングされた個性についての表現。主にガーリーカルチャーからインスピレーションを得ていた。「Sweetie」をやっているときは、自分は複製の複製であるのか、自分のアイデンティティーについて考えていた。これまでに音源付きのZINE「Sweetie Club」を2号出している。1号は大量生産されたイメージの混沌にのまれた、私たち世代の「POP」を印象づけたビジュアルにまとめた。「マイリトルポニー」「コカ・コーラ」「アルヴィダ」「パワーパフガールズ」etc...。tumblrやinstagramに大量に落ちている「POPアイコン」、私たちはいつの間にか、その没個性に毒されている。飽き飽きしている。けれども新たな消費は始まっていく。そんなつまらない現代の流行へおくる皮肉をこめて作られている。2号は、アルバム「Vanity Angel」がついたZINE。このアルバム、ZINEは私の過去にまつわる物語からコンセプトが生まれた。私の思春期の恋愛のひとつに、インターネットを介した面識のないボーイフレンドがいた。彼との時間は思春期特有の寂しさや空虚感を埋めてくれる存在であり、私は現実と非現実のあいだに自分の居場所を見出していた。インターネットには空虚な愛が点在している。同時に、現実の世界には目に見えなくても空虚な天使の姿をした少年少女がたくさん存在していると思う。このアルバムは、年内に改めてリリースをするつもりだ。
「Pink Queendom」は今年始まった。この活動の入り口にはジェンダーに関する問題意識がある。男性中心社会や権威主義へのアンチテーゼとして活動を始めた。パーティーやトークイベント、音楽イベントなど多様な活動を行っている。美術だけでなく、音楽、ファッション、映画、演劇、出版など多様なジャンルのメンバーで活動を行っており、表現ジャンルはプロジェクトの度に異なる。メンバーは流動的だ。毎月行っているパーティーの場所は歌舞伎町の某高級ホステスクラブ。男女の空虚な恋愛や消費の物語の反復がこの場所では繰り返されていて、この場所で新しい物語を見たいと思い、このパーティーをスタートさせた。
−−−東京には様々な表現者が集まっていると思いますが、あなたの周りにいる、あなたが信頼している人たちを紹介してくれますか。
制作を一緒にやっている人たちのことは信頼してる。
−−−あなたのEP「Peach」についてお聞きします。この作品を制作していた際に最も頭の中に浮かんだ言葉や景色などを教えてください。
どこにでもいるような一人の女の子が目を覚まして自身と戦っていく様子。
桃はあっという間に痛む繊細な果物だけど、その見た目と香り、果汁、食感で私たちを楽しませてくれる。
−−−誰に一番聴いてほしいですか。
居心地のいい檻から出ようと奮闘している人たち。また、それに気づかないふりをしている人たち。
−−−作っている時に聴いていた音楽や観ていた映画など、インスピレーションを受けた作品はありますか。
このEPは日常がインスピレーションのほとんどを占めている。私の音楽は日常から生まれている。そのときの私はいつも通りLana Del Reyを聴いていたし、いつも通り深夜にGabberの動画を見ていた。キャバクラのママの人生とか、そこにいる女の子たちや客のことを考えたり。本当にいつもと何ら変わりはない。本当に作りたい、自分の本心で音楽を作るために、染み付いてしまった今の自分に必要のない価値観について棚卸しをしていた最中に「Peach」は生まれていった。「Peach」は日常から生まれていった。
−−−一番最初に完成した曲はなんですか。
「08」
−−−「Peach」はノイジーなエレクトロニック・ミュージックという内容なのかと思いきや、最後を飾る「I'm a lonely house wife」はシンプルかつ美しいギター・リフにあなたの声が優しく、そして切なく編みこまれていく、全く毛色の違う楽曲が配置されています。良い意味で裏切られたというか、聞き進めていく上では意外なラストですよね。これは製作途中で心境の変化があったのでしょうか。
この曲は大切な曲。母のことを想って生まれた。母親の悲しむ姿を見て、いてもたってもいられず部屋に戻ってこっそり録音した。母への尊敬と、彼女が胸に秘めていた夢を想い、システムについて考えていくきっかけを作っていくという意思の表明をしたくて、この曲を入れた。
−−−”I'm a lonely house wife”とは誰のことを指しているのでしょうか。
自分の人生を生きたかったのにシステムによって役割を演じざるを得なかった母たち。
−−−アートワークを担当したAmi Inabaさんを紹介してくれますか。
いろんな景色を一緒に見てきた。彼女のアートワークには刹那的に生きる若い人たちの諦念が漂っている。
−−−以前までUltrademonと名乗っていたAlbert Redwineが性転換し、Lilium Redlineとして、Lilyとしての人生の歩みを始めました。あなたは彼女と仲が良いようですね。彼女の好きなところなどを教えてください。
誠実なところ。彼女は、常に自分を更新していける意志の強さがある。美しい人だと思う。
−−−あなたの活動を見て私が感じるのは、海外の「Sister」、「Drömfakulteten」、「Discwoman」といった、トランスジェンダーなどいわゆる性的少数者とされる人々を内包したフィメールが集うコレクティヴなどとの共時性です。ステレオタイプな”ガーリー”、”フェミニン”のイメージ像ではなく、そして”女性アーティスト”ではなく”アーティスト”としての、力強く美しい集いです。現在の日本で活動する上で、”女性”にこだわるようになった経緯を教えてください。
昔、とあるリリースをしたときに「女性アーティスト」と紹介されたことに違和感を感じたことがきっかけかもしれない。女性であることを利用すればいいのに、と言われるけど、少なくとも自分には女性であることで得る恩恵は要らないし、自分として生きて様々な経験をして死にたい。「これが人生だ」とシステムを言い訳にして死にたくないし、悔しい。"女性"であることを考えることによって、私たちが自ら選択したわけでもなく初めに入られらる檻を認識することで私たちを縛るシステムについて考えるようになった。海外のグループを意識したことは無い。この国に必要だと思うから、こういう活動をしている。
−−−(あなたも十分に若いですが)ティーンの女の子たちにアドバイスを送るとしたら、どんな言葉をかけてあげますか。
本当の自分になるための戦いをしてほしい。たくさんの罠があるけど、それに気づく賢さを身につけて。私もそれを続けていこうと思う。
−−−5年後の目標と10年後の目標を教えてください。
より身軽になっていたい。与えられた人生の時間を使って、実験をし続けていたい。
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11/04/2016
11/02/2016
'Thumper' by Drool
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'Thumper' by Drool |
プロヴィデンス在住のアート・デザイナーBrian Gibsonとソウル在住のプログラマーMarc FluryからなるDroolが”リズム・バイオレンス”を標榜する「Thumper」を発表し、2016年に衝撃を与えている。
”リズム・アクション・ゲーム”と聞き私たちが思い浮かべるものは”リズムを楽しむ”という享楽的な側面が強いように思う。しかし、それはステレオタイプな見方だったと考えを改めなければならない。「Thumper」は”リズム・アクション”の新時代到来を告げるマスターピースである。彼らは”リズム・バイオレンス”、その言葉通りのものを作り上げた。
「Thumper」にあるのは圧倒的な”スピード”と”身体性”。メタリック・ボディに仕上げられた甲虫類が本作の主人公、プレイヤーなのだが、彼に与えられる役目はただひたすらに曲がりくねったレールを走ることだけ。中に人類が搭乗しているのかどうかは知らないが、この”生物”は疾走することを拒否できないし、延々と宇宙のサイケデリアを進まなければない。「R-TYPE」の背景にあるストーリーのような不条理をも思い浮かべるが、「Thumper」には言葉で語られるものは一切なく、ストーリーの提示なんてものは一切していない。しかし、この甲虫は、広大な孤独の空間を、轟音で響くドラムに身震いしながらレールの向こうに構える異物を取り除いていくという宿命を受け入れるしかないのである。甲虫が奏でるのはダンス・ミュージックの色気ではなく、自動生成、鳴らせざるを得ない”グルーヴ”であり、そこに同期することを強く求められた結果の無機質なものだ。しかし、その成功の報酬として解放される光弾は何よりも気持ちがよく、無限に続くように思える螺旋に没入してしまうのだ。
本作で求められるのはチュートリアルを必要とするような手間のかかりものではなく、無駄を削ぎ落としたシンプルな操作だけだ。しかし、シンクロした映像と音響が演出していくエクスタシーの加速は一度始めると辞めることが出来そうにない。そこで奏でられる”音楽”は異世界、ゲーム、SF的な音と我々人類にDNAレベルで刻まれたドラミング、リズムの高揚感という関係性を見事に打破しており、高次元なものとして融合させている。私はここで、Angel-HoやAir Max '97、M.E.S.H.らを思い浮かべた。
彼らはミュージック・コンクレートの手法を用い、スラムで響く銃声や犬の鳴き声、ガラスの割れる音、サイレンなどの”現実世界”と、Sci-fiなヴィデオゲームや映画からサンプリングしたような効果音などの”異世界”をシームレスに紡ぎ、”クラブ・ミュージック”としてそのフォーマットをアップデートし続けている。彼らに共通するのは”異世界、未来的なのに生々しい”ということだ。この感覚に「Thumper」は近い。これらを私はシンクロニシティのように思えて仕方がない。
○ Thumper https://thumpergame.com
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