4/27/2019

SIM MIX: #014 Joragon


ノイズはいつまでも終わらない。

ジェームス・ブラウン誕生の地でもあるジョージア州オーガスタで生まれ育った24歳のプロデューサー・Joragonを紹介。人口20万人弱と決して大きな都市とは言えない街から届く壮大なポスト・アポカリプス・ノイズ・コラージュの50分を、久方ぶりに更新するSim Mixにて皆さんにお届けする。



彼の音楽的バックボーンは非常にユニークである。まず、ヒップホップ・グループのWu-Tang ClanとN.W.Aが存在として大きいと言う。その次に続くのがプランダーフォニックスの提唱者でマイケル・ジャクソン等のポップ・ミュージックを痛烈に批判したJohn Oswald、そしてジャパニーズ・ノイズのリヴィング・レジェンドMerzbow、2010年代のクラブ・ミュージック像を創り上げたアイコンTotal Freedom、EDMからハードコアまでを通過したキメラを製作しているCHAi-T、オーガスタのローカル・ミュージシャンたち、ときて私からも影響を受けているらしい。数年前にDJWWWWの音楽を聴いたときに自身の創作に大きなインスピレーションを与え、実行したとのこと。というか、こうした面々を並べながらも大好きな曲はMinnie Ripertonの名曲「Perfect Angel」だったりと掴めないところがある。

Wu-Tang ClanやN.W.Aときて、彼のスタイル(例:映画やビデオゲームのSci-fiなサウンド・エフェクトをサンプリングする等して、クラブ・ミュージックに組み込んでいく)からすると、てっきり私はChino Amobi周辺を影響元として挙げるのだろうと思っていたし、事実、それは間違ってはいないのだろうが(影響を伺った際には彼は前置きで「A lot,」としている)、真っ先にアカデミックなマイクロ・サンプリングのJohn Oswaldを挙げたのは意外だったし、何ならそういった人物からは距離を置きそうな排他性があるのがChino Amobiらの佇まいなので、どうもJoragonという青年が放つ、現行の(この呼び名はどうかと思うが)Deconstruction Club的なスキームの感性と、彼の母国US伝統の、LAFMS的なノイズの脈流の間に座しているような、まさにハイブリッドといえるコラージュ・ミュージックの現在を伝えるこの禍々しい音源が私には新鮮に映ってならない。Nurse With Wound、DJ
 Yo-Yo Dietingなどのファンも唸らせるだろうし...。


この手の”ごちゃごちゃ”は彼がパイオニアであるわけではない。NmeshやMukqsといった面々が発表してきたミックスや作品に共振するところは多いにあるだろう。大前提としてノイジーなコラージュにはいつの時代にも取り組まれてきた立派な歴史がある。しかし、そこで選択される素材は絶えず更新されていくわけで、24歳の若者が発信する、このあまりにも歪でメタメタにカットアップされた膨大な情報の数々は至極、現代的であるし、この10年の決算セール的であるし、これからの10年に向けての解放運動のようにも思える。彼のSim Mixをじっくりと通して聴くのは武者修行の域だが、その先にあるカタルシスは開けた地平を描くわけだ。人はなぜノイズに惹かれるのか。いつまでも終わらないこの永遠のテーマをJoragonと共に歩み考えてみよう。




Joragon

4/26/2019

2019年 3月月20日午後3時34分PDT



雨の日、マンションの一階部分のからっぽの駐車場に一台のカートが停まってて、その上にびしょびしょの枕が乗っけられてたのを見つけた時の動画と写真らしい。オルゴールの音も最高。

こんなの美術でもなんでもないただの日常なんだけど、だからこそ美しいとも思う。
少し前から美術を扱うことを始めていて、だけどこれまでしっかり美術を学んだことないし、まだよくわかってない。でも、こうやってハッとさせられる瞬間が美術なんだとしたらめちゃくちゃ楽しくない?おれはそう思ってるから続けてる。

美術だからどうって話じゃなくて、こういう瞬間を愛でることってだれにでもあると思うし、もしかしたらもうこんな感覚も既に言語化されてるのかもしれないけど、こんな感じの表現を自然とスマートに形にしてしまうような表現がもっと見たい。で、おれはそれが美術なのかもしれないなって気がしてる。

Im drinking water



ニューヨーク在住の女性ナタリアが投稿したただ水を飲んでるだけのセルフィ




@ elliottsphoneがシェアした投稿 -

たしかこのあと何人かの友人たちがそれを真似たセルフィーを投稿してたんだけど、今見つけられたのはグラフィックデザイナーのエリオットの写真だけだった。

これを見たとき、彼らがインターネットでこうやって遊んでる姿が、健康的で美しく思えて感動した。告知とか自己PRのためにSNSが使われだして、おれがそういう風にSNSを使うひとたちばかりをフォローしていたから悪かったんだろうけど。最近は情報を追うためじゃなく娯楽としてインターネットを使えるようになった気がしていて、そう思えるようになってから、やっぱりインターネットってたのしいなってまた思えるようになってきた。
おれもこのときすぐ真似してセルフィーあげればよかったな。それくらいのスピード感と気さくさを身につけたい。

Mothew





Lily Bartleさん(@flour.sack)がシェアした投稿 -

たしかHole, Earth, Catalogってサイトを見つけて知った人。あんまり動きはないんだけど、面白くなりそうなウェブサイトだからまた今度紹介したい。

彼女がニューミュージアムで働いてるってことにもびっくりしたんだけど、殺しちゃった蛾かなにかの昆虫をこんなにも親切に思う人たちが取り扱う美術なんて、そりゃもちろん最高に決まってる。
不意の事故で殺しちゃって、その昆虫を想ってポスターを作った。たったそれだけのことだけど、丁寧にそれをやったらこうやって誰かの心に届く。素敵だね。

余談だけど、来月ペフに彼女とは違うニューミュージアムで働てる人が展示しに来てくれる。ペフもこうやってみんなを思いやれる場所に出来たらいいな。どんな人なのか会うのが楽しみ。

4/21/2019

Screensaver collection by Everest Pipkin







Hengenoma - HOLY GRAIL SIPP


アートワークにしても古いし、この手のコラージュは今後どんどんと隅に追いやられていくのは明白なんだけど、どのジャンルやカルチャー、タームにしても多勢が去った後にも地下でしつこく愛でている連中がまた面白くしていくと思うので、彼にはこのまま突っ切ってほしい。

Elvin Brandhi - Empty Weeping


音源はもちろんのこと琴線に触れるのが「Video by Elvin Brandhi」の文字。餅は餅屋、協業の楽しさや美しさもあるけれど、やっぱりマルチな才能ってのが好きだな。

4/20/2019

2019年4月19日(金)23:42 近況とか


https://www.behance.net/gallery/77323971/iQOO-Artists-Motions
映像作家の橋本麦さんに音を提供した。この映像のために新しく製作したというわけではなくて、昨年リリースした「Glass」という曲の使用を許可しただけなんだけども。普段こういうのやらないので新鮮だった。彼の告知ツイートに私宛のメンションを併記してくれていて、それがまたリツイートだったりの数が普段の自分のSNSで経験しない量だったものだから、有り難いと思いつつ慣れなかった。そわそわしてしまった。自己顕示欲はある、ナルシズムもある。自分を俯瞰したい気持ちがすごく強い。が、発信力は自分にはいらないのかも。なんとも言えない不思議な感情。不安にならずともその道しかないが、やっぱり、一生、有名にならずに死んでいきたい。数名〜200名程度にしかリーチしない世界で本当に満足している。つまり目標は現状維持。だからといって閉鎖的になりたいわけでもなく。なんなんでしょうか。とにかく私はフェルナンド・ペソアに憧れているんですよ。

関係ないけれどDJ Exilevevoのアルバムは今年も冬ぐらいにリリースしたい。

現在製作中のEPより「Refresh Drink」。愛飲の”愛のスコール”にその文字があった。

彼女との付き合いって何年前からなんだろうと思って調べたら、きっかけは私が2016年ぐらいにPhineryからMukqsとのスプリットをリリースしたとき、そこに「Tokyo Metro」という曲を収録したんだけど、それをTMTのライターになったばかりの彼女が取り上げてくれたことだった。その後C Monsterが二人は話すべきだよ!と彼女をCcに入れたメールを送ってきて、そこで私の拙い英語と私に配慮して易しい言葉で返してくれる彼女とのやり取りがあり、仲良くなって、後にLynnへの参加を誘われる運びとなった。ゆったりとした付き合いを重ね数年、はじめて共同で曲を製作した。Grouperの「Holding」とGraham Lambkinの「Abersayne」をサンプリングした。

5月1日(水)、幡ヶ谷Forestlimitにて久しぶりのライブをする。自分にとって音楽はリスニングや製作するのが目的と快楽であって、いわゆる「現場」だとか、「ライブ」であるとか、そういったところに意識が向かず、そういう解釈となると、件の会場であるForestlimitの周年パーティ(に、私がでるイベントは組み込まれていないが)での代表のメッセージであるとか、カトーさんの哲学だとかからすると、私はとても魅力的でない人物なのではないかと思う。「ライブ」といってもCDJで自分の音楽を流すだけだし、かといって私は決してDJではないからDJ的なスキルとしての妙も無いしで、なんとも中途半端な位置にいる。だったらCDJを使いこなすよう鍛錬すればまだマシになるのかとも思うがその気力もなく(自分の部屋にDJ機材は置かなくていい)、いい加減にカール・ストーンのようにどっしりと座ってパソコン1台で「演奏」するあのスタイルに変えないと。

4/19/2019

caroline foley - dreaming in the house of pleasure


今夜は満月で、俗っぽく「ピンクムーン」について知った。ネイティヴアメリカンが、段々と暖かくなる4月には花々が咲くことから、それらの花の色になぞり4月の満月をそう呼ぶらしい。まぁ、どうでもいいといえばどうでもいいんですけども。

4/18/2019

【Mana feat. Torus in K/A/T/O MASSACRE vol.219】2019/May/1(Wed)


Mana feat. Torus in K/A/T/O MASSACRE vol.219】2019/May/1(Wed) at @FORESTLIMIT OPEN/START 19:00 DOOR 2,000yen(+1D) Torus / cotto center / Daiki Miyama / Kenji / LSTNGT / SHaKa-iTCHi / Shattered Form Artwork by Daiki Miyama

***
Absurd TRAXからリリースするアルバムの曲を中心に優しい音楽を流そうと思います。音源の在庫を捌くことが今まで出来なかった(毎回家に忘れる)ので、今度こそメイクマネーしたい。

4/17/2019

Kinet Program 10 Trailer


Kinet Program 10 - April ‘19 Eden is a Cave by Alexandre Galmard Nanterre Personne by Angelina Battais Red Shift by Isaac Goes 4z by Michelle Yoon Go-Stop by Miguel Mantecon Chroma by Jeremy Moss Premiering at 6624 Fresh Pond Road, Ridgewood Queens April 16th Online Premiere, April 18th http://kinet.media

4/16/2019

malibu - crosses


malibu聴いてるとenyaと曲作って欲しくなる。

メトロノリ Metoronori - まだ


穏やかな海に優しい弧を描く船跡や、雲の向こうに覗く冬をまだ忘れていない山、稜線を境に日照りと日陰のコントラストを主張する連峰だとか、それを観測する飛行機を待つ空港であるとか。夜桜・花火・郡鳥がそこにあった公園、街を滑っていくモノレールの映像と、音も。春、肌寒かった日々も落ち着きを見せ、桜は散り、季節はじわじわと巡っているわけですが、ゆらゆらと、静寂のなかで広がっていく水面のようなアンビエンスが広がる彼女の2分28秒の新しい曲、「まだ」は、規則性もなく自由に様々な音の素材やメロディが編まれていくのに雑多であるかというとそうではなく、しっかりと、伸びやかで、流麗な、そして落ち着きを払った世界になっており、そしてそこには余白もしっかりとあるものだから、受け手として情景を考える余裕が生まれ、どこまでもこの映像の先に身を預けていたい、と。

4/15/2019

Ann Dunham - City Dolphin



Xiao Quan - 海尔兄弟 . 711 (小泉的衔接)


Live Adult Entertainmentをきっかけに知ったXiao Quan、話しかけてみるとその硬質で暴力的なサウンドとは裏腹にフレンドリーだった。彼の無邪気とも取れるサウンドクラウドでの他人の音源のリポストを見ていると確かにその傾向はあったのだけれども。インスタグラムでも気さくにメッセージを送ってきてくれるしで気難しさとは無縁の青年なのかも。ルックスはサウンド直径にVシネLikeな厳つさがあるがそれ込みでパーフェクトだと思う。それにしても彼の音源はすべてかっこいい。DJ Loserとかと一緒に日本で観たいなぁ。

"Big Room" by Ulla Straus [Quiet Time, 2019]


NYのレーベルQuiet TimeからリリースされたUlla Strausの「Big Room」をよく聴いている。マスタリングはJesse Osborne-Lanthierが担当。Quiet Timeはx.y.r.やKareem Lotfyなどここ数年のアンビエントのシーンにおける役者を招聘しており、昨年、Huerco S.が主宰を務めるWest MineralからリリースしたPontiac Streatorとのスプリットで名を挙げた感のあるUlla Strausがここに並ぶのも旬という意味で抜群な人選だと思う。

Ulla’s productions reveal a discerning process of stripping tracks to their essence, letting space, silence, simplicity and repetition be her guide. She lends a magic touch to a difficult and minimal style of music, creating an album that is comforting and tranquil, yet hypnotizing and transportive. Most evidently, UIla’s music is inspired, by emotions and experiences unknown to us, but perhaps best represented in her own words: 

“keeping pictures on a wall left there by someone else. 
day dreaming about something not real. 
hearing a friend walk through the front door. 
letting a plant die. 
the silence of a room when the box fan is turned off."

4/14/2019

TELLING LIES | Teaser Trailer


Sam Barlow新作。

4/13/2019

Kenji - Mujirushi [International Winners / N10.AS®, 2019]


2014年〜2015年に製作した曲/リミックス/ショート・ミックスを繋げた音源をInternational Winnersに提供した。n10.as®で放送されたとのこと。自分がもっと若かったころにDJ Yo-Yo Dietingやローファイ期のJames Ferraroの作品群だとかをDiscogsで目の当たりにしたときの、威圧感に似た、情報量に圧倒されるあの感覚...が、10年後の自分に欲しい。粗雑で多作でありたいな。恒久的で時代を超えていく作品は自分には作れないし、誰からも支持されずに死んでいくような、どうしようもないぐらいが丁度いいと思うんだよ。自分自身、孤独な音楽には惹かれるんだし。

DJ LOSER - emotional exchange decadence


先日母親にインスタグラムをフォローされていることに気づいた。ストーリーズの既読一覧のなかにあったとあるアイコンを何気なく見たらどう考えても実家や地元の風景で、投稿者は母親だった。恥ずかしかったのでブロックしてしまったが、今度帰省したときに話してみようかな。

Bruce Andrews - Confidence Trick


https://books.google.co.jp/books?id=48zeCQAAQBAJ&pg=PA51&lpg=PA51&dq=Bruce+Andrews+-+Confidence+Trick&source=bl&ots=2Fa0pL-zgk&sig=ACfU3U3jrKQ7FbB7FWkxbaMrw1uj0zqB6Q&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwibjqDa78XhAhWJfbwKHRGqB-0Q6AEwAnoECAgQAQ#v=onepage&q&f=false
毎日書く、と決めたものの仕事帰りはとにかく疲弊しており泥のように眠ることが多い。

4/11/2019

過去の音が問うもの——「日本美術サウンドアーカイヴ」の問題意識

Tomotaro Kaneko氏が書かれた文章を最近読み漁っている。

[ASYNC-01] SERWED - SERWED LP Test Pressing


月曜、飲みの席を設けてもらい、所属課の課長に改めて自身の考えを伝えた。全体的なトーンとしては慰留だった。精神すり減るなぁ、人生とは難しいなぁ、と思う。

4/07/2019

国産コラージュ・ミュージックのメモ


Mieko Shiomi ‎- Requiem For George Maciunas
https://www.discogs.com/ja/Mieko-Shiomi-Requiem-For-George-Maciunas/release/1037361

Rocket or Chiritori - Thank You
https://www.discogs.com/ja/Rocket-Or-Chiritori-Tokyo-Young-Winner/release/3507744

スーパーボール - スーパーボール
https://www.discogs.com/スーパーボール-スーパーボール/release/2286149

Miki Yui - Atomu
https://www.discogs.com/ja/Miki-Yui-Silence-Resounding/release/209233

Yuko Nexus6 - N.S.K.K. Coming Soon
https://www.discogs.com/ja/Yuko-Nexus-6-Neko-San-Kill-Kill/release/8625900
***
教養...と言われると辛いけれど、著名とはいえ聴いたことのない音源なんて腐るほどある。去年ぐらいからまとめようとずっと思っていたけれども結局放置していたメモ書き。簡易すぎるが列記したなかで特に出色なのはRocket or Chiritoriの「Thank You」(いつかのsim radioでも言及したし、なんなら+you & space xの「with u」というアルバムでサンプリングした。)と、Yuko Nexus6の「N.S.K.K. Coming Soon」。この2曲は初めて聴いたときの感動が忘れられない。彼女たちの音源、国内でも海外でもよいので再評価進まないかなぁ。Rocket or Chiritoriは柴原聡子として大活躍中なので再評価というと少し違う気もするけれど。

"urhstral" by 𝑓. [[sacrum]ephus. =ɐuıʇsǝıɥd ST.xidual 3/2.624fff +12, 2019]



本名=川崎 愛(かわさき・ちか)
明治44年2月14日—昭和11年1月7日 
享年24歳 
北海道余市郡余市町美園町 美園墓地

 
詩人。北海道生。小樽高等女学校(現・小樽桜陽高等学校)卒。昭和5年頃から北園克衛、春山行夫、江間章子、阪本越郎などと同じ雑誌に投稿していた当時のモダニズムの代表的な女性詩人。新進気鋭の新人と期待されたが病のため早逝した。没後、百田宗治編集の『椎の木』が『佐川ちか追悼号』を出した。また58年『左川ちか全詩集』が刊行された。


暗い樹海をうねうねになってとほる風の音に目を覚ますのでございます。
曇った空のむかふで
けふかへろ、けふかへろ、
と閑古鳥が啼くのでございます。
私はどこへ帰って行ったらよいのでございませう。
昼のうしろにたどりつくためには、
すぐりといたどりの薮は深いのでございました。
林檎がうすれかけた記憶の中で
花盛りでございました。
そして見えない叫び聲も。

防風林の湿った径をかけぬけると、
すかんぽや野苺のある砂山にまゐるのでございます。
これらは宝石のやうに光っておいしうございます。
海は泡だって、
レエスをひろげてゐるのでございませう。
短い列車は都会の方に向いてゐるのでございます。
悪い神様にうとまれながら
時間だけが波の穂にかさなりあひ、まばゆいのでございます。
そこから私は誰かの言葉を待ち、
現実へと押しあげる唄を聴くのでございます。
いまこそ人達はパラソルのやうに、
地上を覆っている樹木の饗宴の中へ入らうとしてゐるのでございませう。 
(海の花嫁)


  
 祝福を斥けて、落日と共に失われた夢は閉じたり開いたり、少しだけ毒を含んだ少女、あてどのない暗くて遠い夜の道はどこまで続く。さまようものは眠りにつくしかないのだ。
 ——昭和10年12月27日、末期症状と診断された胃がんの病状は悪化の一途をたどり、死期を悟ったちかは西巣鴨の癌研究所附属康楽病院から世田谷の自宅に帰った。しかし年を越した1月7日午後8時30分、生涯の支えとなった異父兄・川崎昇や思慕の人・伊藤整、慈しみの師・百田宗治、理解者・北園克衛、詩友・江間章子や北川冬彦、春山行夫、近藤東、阪本越郎等々、数多のやさしい光の中に〈海に捨てられた〉少女の跫音や思い出を追いやって、困惑した少年のようにゆっくりと目を閉じた。



 夜露に濡れた草々の先端を刃のように光らせて、北の国の朝は明けた。
 晴れ晴れとした碑面を眼下の余市川に向け、墓山は輝きにあふれている。眼鏡の少女佐川ちか、東京・祖師谷にて火葬された遺骨はその夏に余市の川崎家の墓に埋葬されたと。ただその一行を頼りに心細くも余市まで来たのだったが、おびただしい墓群れを前にして足がすくんだ。
 しかし一族の墓はあったのだ。「川崎家先祖代々之墓」、新しく建て替えられたと思われる碑に祖父母の名が刻まれてあるが、ちかの名は見当たらない。二昔も前のこと、川崎家の塋域の中の名もない石塊の傍らに卒塔婆がたっていたという話だが、整備された墓庭は黄色い小さな花が咲き乱れているのみ。石塊もなく、ちかの亡骸はここに埋葬されたのか否かは定かでない。


***
左川ちかの詩、どれも少し暗くて落ち着く。

Jasper Spicero - Centinel


社内異動での関東圏勤務が叶わないならば6月末を以て退職する旨を上司に正式に伝えた。正直、不安が大きい。転職したとして生活が上向くかというと厳しいだろうし。ただ、そうだとしても、東京に行かないとだめな理由が出来たので。人生長いけれどなんとかなるさ。いろいろな場所に行きたい。

4/05/2019

Ann Dunham - http://wrasse.pw/~joel/2yt/#video1=Ec_Frf_EAsg&video2=VXSqma4G344






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たそがれは紫水晶から深い更に深い青に変る。
ランプは薄い緑の光で街路樹を満たす。

古風なピアノが曲を奏でる、静かな緩慢な軽快な曲を、 
彼女は黄色いキイの上にかがみ彼女の頭は此方へ傾く。

内気な考えとかなしい大きな瞳と人々が
聴き入る間をさまよう手と。たそがれは紫水晶の光で更に深い青に変る。


ジェイムズ・ジョイス詩集「室内楽」より「2」
from Chamber Music by James Joyce

左川ちか 訳

4/04/2019

ity - RQ-16


https://ity-sound.bandcamp.com/album/proton-burst
アムステルダムのityが良い。先月自身のバンドキャンプにてリリースしたEP「Proton Burst」より”RQ-16”のミュージックヴィデオを視る。D/P/Iが2010年代前半で展開していた質感を保ちつつ、Skee Maskに邂逅したような感触とでもいうか。キックだったり、それらパーツをサンプリングした打撃音etc.に置き換えたクラブ・ミュージック、まぁ、”エクスペリメンタル・クラブ”とか本当にダサい名前なので勘弁してほしいし、この5〜6年ぐらい同じようなプロデューサーがどんどんと出てきて食傷気味であるとしか言えないのだけれども、ityはとにかく鳴りがよい。
***
2010年代も終わりが見えてきたわけで、個人的にどんなディケイドだったか、もちろん自分自身も年齢的にこの時代がど真ん中だったわけで、楽曲制作側の(一隅とはいえ)当事者としての皮膚感覚も踏まえると、やはり、サンプリングの質感というか、それらのディグのフィールドが更新されたのだとは思っている。すべてはYouTubeが端緒だと確信しており、それはD/P/Iの「She Can Yell」の元ネタの悪趣味さ、生々しさが語っているところだろう。

4/03/2019

Sophia Hjkleightninezeroone - FEEDBACK LOOP


吉岡実が20代の若者だったときに書いていた日記を撮影したものを何枚も送ってもらい、そこで感じたのは数行でよいので日々を書き残してゆくこと、と、それを見ると非常に心を打つということ。というわけで今月はSIMの更新を努力する。作品の紹介であるとか、そういった意識はせずに、日記として。1日1ポストを目標とする。先の、吉岡実の文章は、とにかく本の虫であることが伺える、ひとりの青年の煌めきのようなものを感じて、とにかくよかった。なにでもない、その日の簡潔な描写であるのに、難解な本について読むことを諦めたことだとか、飾り気のない言葉でつらつら、と。そこに広がるモラトリアムの空気が美しかった。