先日、マンチェスターの映像作家Jim Johnstonより一通のメールが届いた。私がポルトガルはコインブラの〈A Q U A E〉よりリリースした、主宰のxccg(jccgの変名)とのスプリット『buranko』の収録曲を映像に使用したいというものだった。私は”もちろん、いいよ。xccgがいいと言っているのならば。”と返信した。彼はxccgともコンタクトを取っていたようで、めでたく映像が公開される運びとなった。
Googleの画像検索でヒットした365枚の”sunrise”と”sunset”をコラージュした映像に流れる「Leva」は、私たちのスプリットの最後を飾るxccgの楽曲。xccgの世界にはコインブラの歴史ある街並、透明な川の水、澄んだ空気が染みている。一点の曇りなき静寂と教会に流れる荘厳な空気だ。それらに包まれていく、美しい”太陽の始まりと終わり”は、Google社が開発したウェブクローラー、botによって機械的に収集された電子情報の集合体であることを12分間ほど忘れさせてくれる。世界はどこまでも美しい。
昨年、伝統としてヒップホップの街ではないボルチモアから多様性に富んだ新世代のラップが頭角を現しているということでNOISEYにてシーンの特集が組まれたが、そこに並んでいたフィメールMC・Grey Dolfの異様な浮きっぷりがたまらないものがあった。Grey Dolfはスカスカで退廃的な雰囲気を纏う超ローファイのトラップ・ビートで気だるくラップし、時折ゴスペルやソウルからの影響を伺わせる。Chief Keefの大ファンだという彼女が彼のようなオラついた派手さは選択せず、路上の埃を被ったカセットテープを再生したような雰囲気、土の匂いがすると同時に、過去には全米で2番目の人口を誇りながら半世紀近く人口減少が止まらなかったボルチモアという町の(勝手に想像する)侘しさ、”乾き”のようなものを受け取らせるのが面白い(関係ないが『Life is Strange』はアメリカ映画に出てくる地方都市が好きならばプレイすることを強くお勧めする。”あの空気感”の中で広がる素晴らしい青春ミステリーだ)。しかし、Grey Dolfは一切のネット上のアカウントを今現在削除しており、その姿はYouTubeにアップロードされた動画だけになってしまった。
さて、ロサンゼルスより彗星の如く現れたシンガー・Kleinは先述の通りにボルチモアとは全く関係ないのだがGrey Dolfに通じるものがある。まずはロンドンのJacob Samuelを迎え、Josh Homerがディレクターを務めた「Hello ft jacob samuel」のミュージック・ヴィデオから。
Flatlinerzが女性をフロントに置き現代にモデル・チェンジをしたのならば...そんな妄想も捗る不穏な空気。いや、そもそもこれはラップではないか。古びたホラー映画のフィルムに散るプチプチとしたノイズや不協和音を上物に不釣り合いなメタリックなビートは時代の認識を狂わせてくれる。伝統的なサンプリングのチョイスながらに実にモダンだ。
Kleinが今年の春に〈Howling Owl〉からリリースしたUSBアルバム『Only』は全体的に「Hello ft jacob samuel」のような不気味さと実験性に終始している。彼女は自身の音楽にゴスペルとポップを謳うがその実態はノイズやコラージュなど様々な形に溶解したものである。しかし、次の「Marks Of Worship」はミュージック・ヴィデオを見ての通りに実に力強いメッセージが込められたものだ。ナイジェリアをルーツに持つ彼女。人種問題で揺れ動く米国。#BlackLivesMatter。そこで撮影されし美しい人々。監督を務めるAkinola Davies JRもまた黒人である。