8/28/2016

Jim Johnston ~ 356™


 先日、マンチェスターの映像作家Jim Johnstonより一通のメールが届いた。私がポルトガルはコインブラの〈A Q U A E〉よりリリースした、主宰のxccg(jccgの変名)とのスプリット『buranko』の収録曲を映像に使用したいというものだった。私は”もちろん、いいよ。xccgがいいと言っているのならば。”と返信した。彼はxccgともコンタクトを取っていたようで、めでたく映像が公開される運びとなった。
 Googleの画像検索でヒットした365枚の”sunrise”と”sunset”をコラージュした映像に流れる「Leva」は、私たちのスプリットの最後を飾るxccgの楽曲。xccgの世界にはコインブラの歴史ある街並、透明な川の水、澄んだ空気が染みている。一点の曇りなき静寂と教会に流れる荘厳な空気だ。それらに包まれていく、美しい”太陽の始まりと終わり”は、Google社が開発したウェブクローラー、botによって機械的に収集された電子情報の集合体であることを12分間ほど忘れさせてくれる。世界はどこまでも美しい。

8/24/2016

8/23/2016

SIM MIX: #003 Earthly ~ 'Simple Mix'

Earthly

 Edaan BrookとBrint HansenによるデュオEarthlyは、元々Bonglestar(もしくはBonglestar Galactabong)という別名のプロジェクトで2010年代の前半を過ごしていた。Hi-Hi-Whoopeeや〈TERRORDOME〉のコンピレーション・アルバムに参加しており、その頃の作風というと、ヴェイパーウェイヴの第三世代(Vektroidを第一世代、Internet Clubらを第二世代として)の渦にどっぷりと浸かったようなスクリューされたサンプル・ソース、インターネット・トラッシュであり、Earthlyでの高品質なキュートネスからは想像のつかない内容である。しかし、Bonglestarは後にEarthlyのデビュー作となる『DAYZ』をリリースする〈Noumenal Loom〉が編纂した初期のコンピレーション・アルバムに参加しているのだから、彼らの溢れ出るポップ・ミュージックの感性を垣間見ることが出来、この交友関係からもわかるがEarthlyのカートゥーン趣味とでもいうのか、「少女性」や「児童」、「ファンタジー」などのキーワードは〈Noumenal Loom〉の主宰であるHolly Waxwingに親近感を覚えていることは想像しやすい。
 そう、彼らの音楽は可愛いのである。2015年に発表された『DAYZ』の収録曲である「Ice Cream」は得体の知らない胸キュンの小動物がアイスクリームを手にピョンピョン跳ねて打ち鳴らす空島〜南国ビーチの極彩色ビートだ。



 今回、EarthlyがSIMに提供してくれたミックスは「Simple Mix」というこれ以上にないくらいに簡潔な表題でまとめられた端正な構成だ。1960年代にBBCに勤めながら数々の実験を展開した、英国・電子音楽の歴史にその名を刻む女性作家Delia Derbyshireの曲から始まり、その後は〈Domino〉から鮮烈なデビュー、3D近未来ビートを反響させるMotion Graphics、またまた1960年代に活躍したガール・バンドThe Caravelles、そして私の静的なプロジェクトである+you、Theo Parrish、DJ Screw、Lorenzo Senni、Kanye West、Sun Ra...うーむ、この全方向性。
 ミックスにはプロデュース能力が問われる。いかに異なるソースを美しく編み込むかが重要である。Earthlyが「Simple Mix」で並べる名前はレコード屋やCDショップでは一生、隣に並ぶことがない運命だ。しかし、時代やジャンルを超えたシームレスな感性、俯瞰して見つめるポップ・ミュージックや美しいものに対する彼らの愛は、決して”X-ジャンル”のゴチャつきを感じさせない。派手なミックスのスキルを使用することもなく、ゆっくりとじっくりと聴かせてくれる、まさに”シンプル・ミックス”の名にふさわしい30分だ。


Tracklist:
  1. delia derbyshire - colors
  2. motion graphics - mezzotint gliss
  3. the caravelles - hey mama you've been on my mind
  4. +you - splashing ii + frank o'hara - having a coke with you
  5. theo parrish - solitary flight
  6. dj screw - sippin' codeine
  7. lorenzo senni - superimpositions
  8. kanye west - father stretch my hands Pt. 1
  9. emahoy tsegué-maryam guèbrou - the homeless wanderer
  10. lukas nystrand von unge - alone and blue
  11. sun ra - paradise
  12. jealous - oldskool

8/16/2016

Pussykrew ~ .: A E T H E R :.

360度のパノラマ動画をCGの世界に導入しようとする試みは昨今少なからず行われている訳だが、Hannah Diamondのライブ用グラフィックやMagic Fades & Soul Ipsum『Zirconia Dynasty』のアルバムジャケット等、様々な作品を手がけてきたPussykrewもまた上海MoMAでの展示の為に興味深い動画を作成している。
 音楽はSalon and Coughが担当。これまでも奇妙な世界観で我々の興味を惹いてきたPussykrewのグラフィックだが、そのグラフィックに360度取り囲まれている感覚はより一層強烈だ。是非スマートフォンで見て欲しい。

○ Salon and Cough https://soundcloud.com/salon-cough

8/08/2016

Yoshitaka Hikawa & Isamu Yorichika & Nozomu Matsumoto & Kenji Yamamoto ~ a part of mixtape pt2


pt1 https://www.youtube.com/watch?v=qKPa3uAxKdc
 私自身が複数のプロジェクトを同時に進めており、他の3人もそれは同様なので、4人での製作というのが円滑に進むかというとそれは非常に難しいのだが、このテンポが現在は心地が良いので緩やかに案を練っている。SIMはメディアであり私の活動史としても機能させたいので開始当初から私的なことも時折書いていくつもりではいたが、私以外に3人も携わる人間がいるのならばここに掲載するのも特に躊躇しない。完成がいつになるかは不明だが確実に進めているので、それまでは各個人の活動を是非とも追ってほしい。

○ Isamu Yorichika https://www.instagram.com/x_t_h/

'Only' by Klein [Howling Owl]

'Only' by Klein

 昨年、伝統としてヒップホップの街ではないボルチモアから多様性に富んだ新世代のラップが頭角を現しているということでNOISEYにてシーンの特集が組まれたが、そこに並んでいたフィメールMC・Grey Dolfの異様な浮きっぷりがたまらないものがあった。Grey Dolfはスカスカで退廃的な雰囲気を纏う超ローファイのトラップ・ビートで気だるくラップし、時折ゴスペルやソウルからの影響を伺わせる。Chief Keefの大ファンだという彼女が彼のようなオラついた派手さは選択せず、路上の埃を被ったカセットテープを再生したような雰囲気、土の匂いがすると同時に、過去には全米で2番目の人口を誇りながら半世紀近く人口減少が止まらなかったボルチモアという町の(勝手に想像する)侘しさ、”乾き”のようなものを受け取らせるのが面白い(関係ないが『Life is Strange』はアメリカ映画に出てくる地方都市が好きならばプレイすることを強くお勧めする。”あの空気感”の中で広がる素晴らしい青春ミステリーだ)。しかし、Grey Dolfは一切のネット上のアカウントを今現在削除しており、その姿はYouTubeにアップロードされた動画だけになってしまった。
 さて、ロサンゼルスより彗星の如く現れたシンガー・Kleinは先述の通りにボルチモアとは全く関係ないのだがGrey Dolfに通じるものがある。まずはロンドンのJacob Samuelを迎え、Josh Homerがディレクターを務めた「Hello ft jacob samuel」のミュージック・ヴィデオから。



  Flatlinerzが女性をフロントに置き現代にモデル・チェンジをしたのならば...そんな妄想も捗る不穏な空気。いや、そもそもこれはラップではないか。古びたホラー映画のフィルムに散るプチプチとしたノイズや不協和音を上物に不釣り合いなメタリックなビートは時代の認識を狂わせてくれる。伝統的なサンプリングのチョイスながらに実にモダンだ。
 Kleinが今年の春に〈Howling Owl〉からリリースしたUSBアルバム『Only』は全体的に「Hello ft jacob samuel」のような不気味さと実験性に終始している。彼女は自身の音楽にゴスペルとポップを謳うがその実態はノイズやコラージュなど様々な形に溶解したものである。しかし、次の「Marks Of Worship」はミュージック・ヴィデオを見ての通りに実に力強いメッセージが込められたものだ。ナイジェリアをルーツに持つ彼女。人種問題で揺れ動く米国。#BlackLivesMatter。そこで撮影されし美しい人々。監督を務めるAkinola Davies JRもまた黒人である。



 Kendrick LammerのTPAB、Kanye WestのTLOPという流れは現代の黒人音楽の主流を決定付けたが、ここに来てこうして若い世代にもそれがナチュラルに受け入れられていることがわかる。先のGrey Dolfもそうだし、SCRAAATCHのMhysaもそう。ゴスペルという彼らのルーツを現代にて彼らなりに解釈している。「Arrange」は黒人音楽の全てが溶けたような何者でもない、しかし確実に”彼ら”のものである新しい音楽だ。



 類似が増えすぎて興味を失いつつある〈NON〉周辺だが、音楽性はともかくアティチュードとしてこの時代に新しい価値観をもたらしたことは誰もが認めるところ。そのポリティカルな信条は現代の人種に対する諸問題と密接にリンクし、”Xジャンル”を誰もが求めていた中で、”血とアイデンティティ”の重要性を説いている。彼女もそのようなエネルギーを発信しているのかはともかく、彼女もまた”血とアイデンティティ”の尊さを認識しながら、それを解体し新しい音楽に挑戦しようとしている。



8/04/2016

Ann Dunham ~ HATE VENICE


 映像作家であり音楽家であるAnn Dunham(バラク・オバマの母親と同姓同名)は視覚に対しても聴覚に対しても細切れにされた素材に対するフェティシズムが凄い。もはや執念とも言えるほどにあらゆるサンプル・ソースを刻み込み、それらに集合体としての役割を与えていく。どれほどの容量を持つHDDで管理しているのだろうか。どのようにフォルダ分けしているのだろうか。選定の方法はどうするのだろうか。地味さやシンプル、情報量を削ぐことがトレンドになろうとも、私も同じくそれはどうでもいいとばかりに今日も音楽と映像の編集ソフトを開きマイクロ・サンプリングを突き詰める。これはもはや「道」の域だろう。サンプリング道だ。ジョン・オズワルドがプランダーフォニックスで展開したそれらは怨念に近いものがあるのだが、Ann Dunhamにはネガティヴな感情を受け取らない。純然たるサンプリング愛。コラージュ愛。だって素直に美しく楽しい音楽だし。