7/31/2016

SIM MIX: #002 Julius Smack ~ 'Summer Galliard'

Julius Smack

 Julius SmackことPeter Hernandezはロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト。私が彼のことを知ったのは今年の春前のことだった。彼が主宰を務めるカセット・レーベル〈Practical〉は自身の作品をリリースする傍ら、Anna Luisa Petriskoによる科学と魔法の風景をナビゲートするプロジェクトJeepneysが2014年に発表した実験オペラ&映像インスタレーション『OLINGLINGO』のスコアや、SSWかつマルチメディア・アーティストである才女Wizard Apprentice、〈PAM residencies〉のディレクションを務めるキュレーターBrian Getnick、Jennie Liuによるパフォーマンス/ヴィデオ・プロジェクトGrand Lady Dance Houseなどの作品をリリースしている。肩書きの区分としての”ミュージシャン”に括られる人材ではないところ、それら米国アート界の現行を”バンドキャンプのカセット・レーベル”でパッケージしているのは異質に映る。私はここのカセットを全て購入したが、届いたそれらはラメで煌めく非常に丁寧な装丁の美しいものだった。
 Julius Smackも”ミュージシャン”ではない。彼は確かに電子音楽やゴスペルを嗜むが、Colin Selfにも通じるようなバレエ・ダンス、ヴォーグを飲み込んだ身体表現のスペシャリストである。そしてレーベル・オーナーだ。やはり彼は生粋の”アーティスト”なのだ。このマルチ性がとにかく美しい。
 さて、今回のSIM MIXを彼に提供していただくに当たって、彼からミックスについての文章が届いたのでここに記載する。本人の希望で原文ママ。
Here’s my mix. I’ve been working through thoughts about “buried technology”—small devices that we lose in the sand and what computers and smartphones will mean to excavators thousands of years from now. Will our skyscrapers and data warehouses be ruined by a future ISIS? What will happen to all the plastic? It’s reflected in this recording of Filippo Grandi I made while driving home from a party. He is UN High Commissioner for Refugees, and News Day asks if he ever feels “disheartened” or “powerless”. “Of course this happens,” he says. He talks about being in Kenya, visiting refugee athletes who will go to the Olympics. “These are the things that make me a little more optimistic and help me keep going." - Julius Smack
ミックスに収録されるのはJulius Smack自身の楽曲の他に、『うたかたの日々』の再発で”知る人ぞ知る東の国の音楽”から”世界の宝石”になったMariah等。セルゲイ・パラジャーノフ作品のような鮮明な色使いで深く美しい彼の目に映る風景を描写していく。どの音楽メディアを読んでも追うことは出来ない際立ったセレクションで見事にまとめあげている。



Tracklist:
  • 00:00 - 01:45 Igor Stravinsky - Gagliarda
  • 01:15 - 02:03 Filippo Grandi, UN High Commissioner for Refugees, on News Day
  • 01:52 - 04:43 Julius Smack - Red Wine
  • 04:45 - 07:49 Mariah - Shisen
  • 07:52 - 08:36 Brigitte Fontaine - Moi Aussi
  • 08:36 - 10:45 Julius Smack - Buried Technology feat. Wizard Apprentice
  • 10:40 - 13:35 Can Am Des Puig - The Song of the Void
  • 13:35 - 16:20 Julius Smack & Michael Vidal - Red Rider
  • 16:20 - 19:35 Mega Bog - 192014
  • 19:30 - 21:19 Gino Soccio - So Lonely
  • 21:25 - 25:33 Wizard Apprentice - Keep It In, Keep It Out
  • 25:33 - 27:15 Julius Smack - Encrypted Lie
○ Julius Smack http://www.juliussmack.com

7/30/2016

UN' (p31k36p, Iku, ⭐︎7571)

UN'

 南ロンドンの〈Bala Club〉クルーの周辺が日本のメディアで取り上げられることも珍しくなくなり、Kamixloに至っては〈PAN〉効果が手伝って来日まで果たした。彼らが”太いところ”になった今、天邪鬼な私としてはその余波を受けたdj lostboiであったり、この〈UN'〉クルーがちょうど良い。メンバーはオーストリアのp31k36p、ドイツはフランクフルトのIku、イタリアの⭐︎7571の3人。先の〈Bala Club〉の他、〈NON〉、〈Halcyon Veil〉周辺のシーンに近いサウンドと佇まい。コミカルやキュートネスからは徹底的に距離を置き、シリアスに冷徹に。Chino AmobiとElysia Cramptonが作った感性の継承。新しい時代のレイヤーの重ね方を実行するコラージュ。〈Novembre〉辺りが放って置きそうにないファッショナブルな容姿。Elysia Crampton登場以降のコラージュで『Garden of Delete』も並行して好むAirportのような露悪趣味も存在すれば、〈UN'〉はまさに現場主義、クラブに広がる匂いがする印象だし、この分岐がElysia Cramptonのコラージュの面白いところだと思う。あれは確かにどちらにも響くのだ。



7/24/2016

White Goblin ~ 🎲 U0001f3b2 (Seventh Realm) / U+270C ✌ / Ego Rains




 Asternm Nexuの変名...いや、どちらがメイン?White Goblinが建築する地下迷宮は誰にも発見されずに孤独に佇んでいる。映画やゲームで描写される中世の民族音楽からインスピレーションを受けた”ダンジョン・シンセ”というファンタジーの色の強いタームがあったが、White Goblinにもその趣味は一部に見ることが出来る。そこに食品まつり的な解されたビートが反響していけば独特な奥行きを演出されていく。「🎲 U0001f3b2 (Seventh Realm)」は間違いなく今年上半期のベスト・トラックの一つだ。〈Awesome Tapes from Africa〉が発掘してきたような「U+270C ✌」もエッヂが効いている。そしてYouTubeでしか公開していないアルバム『Ego Rains』はノイズ趣味が爆発した内容だ。古代と未来をシームレスに紡ぎ、土着的鼓動を無機質に処理する彼は近々、某レーベルよりデビューをするとのことだ。私もお世話になった、あの。こうして繋がっていく関係性はとにかく面白い。 
 さて、Susan Balmar等の名義でも知られる/f周辺の人材の相関図を正確に描くことが出来る日本人はいないと断言できる。私もその中の一人ではあるのだが(私は彼らが運営するプライベート・ブログのメンバーなのだ)、”この辺”は誰が誰なのか本気でワケがわからない。しかし、覆面でパフォーミングをする東京のエママウスが相当に交流を深めているのを見るに(エママウスは”この辺”が参加する〈psalmus diuersae〉からデビューしている)、彼女ならばその難儀な行為も達成が可能かもしれない。

7/23/2016

eee ~ w:speak / darkness / dreams / machine / terms






 先日掲載したrrr Gと共振するのがeeeだ。数十年後のアート誌にてYouTubeの登場は確実に感性の変革として、タームとして論じられるだろうが、その分かりやすいサンプルをeeeというふざけたアカウントはあまりにも静かに地下に展開してくれている。”インターネット的”とするアートが3Dモデルの滑らかな質感に終始していないだろうか。形骸化してしまった故に早くも人々はそれらを過去にしようと画策している。個人的に”インターネット的”とはクラウドやSNSに依存した無価値の映像群をフリックした時に滑らかにスクロールされ流れていく様が最も近い。eeeが自身のアカウントに並べるのもrrr Gと同じく無価値の映像だ。適当に拾ってきた映像。適当に撮影してきた映像。非日常のエンターテイメントは皆無であり、誰にでも生産出来るゴミ。それをiMovieか何かで編集すれば出来上がりだ。さすがにiMovieは安すぎるか。Dean BluntとJames Ferraroの登場があったからこそ成り立つアート。しかし、rrr Gの時と同じ言葉を繰り返すがなんとも言えない心地良さがあるのがイマであり、YouTubeという額縁が想像以上に、アートに対し無意識に効果的に機能していることがわかる。D/P/IもYouTubeがあったからこそより一層輝いたのは正直に認めなければならないだろう。

7/19/2016

gobby + toiret status + djwwww ~ doflamingo - 4_30_16, 7.50 PM


 〈UNO〉の看板ミュージシャンとしてその奇怪なレーベル・カラーを鮮やかに彩り(いや、下水道のような汚れにまみれた”反グッド・ミュージック”なんだけども)、テクノやヒップホップなどのリズムとビートを咀嚼した何者でもない何かを作り出すGobbyことロングの黒髪をなびかせる青年Gabriel Sugrueは、Hype Williamsのライブで圧巻のパフォーマンスを披露する凄腕のドラマーであり、Dean Blunt的に閉じた我が道を行くのかと思いきや、〈1080p〉のような旬のレーベルからポンッとカセットを出してみたり、そうか、君は”アンダーグラウンド”に留まる運命なのだな、と訳のわからないミックステープを聴きながら思っていたところに〈DFA〉からデビューして太い存在になったりと、とにかく掴めないのがGobbyだ。そんな彼と連絡を取るようになったのが、私が昨年Druid Cloakが運営する〈Apothecary Compositions〉からリリースした『Gargoyle』のzipをくれという催促を彼から受けたことがきっかけだった。会話を重ねていく中で両親が日本人と交流があったらしく、日本でのプロモーションをもっとしたいそうで、知り合いのメディアの人間に自分のことを紹介してくれないか、とも。日本でライブをすることが生涯の夢でもあるそうだ。そこで(?)、交流の深化も兼ねて、同郷のtoiret statusを引っ張り出して1曲ほど仕上げたのでここに公開する。どう考えてもクソみたいな曲だが3人は同じようにポップ・ミュージックが好きだ。

7/16/2016

rrr G ~ coco_chambo / great_release



 日常の音。何でもないスマートフォンで撮影された動画。日々大量にYouTubeやTwitter、VINE、Instagram等にアップロードとアーカイブされていく誰かが撮影した無価値の光景。こういう議題、もういいよね。そういえばWIREDは”インターネットの次に来るもの”を論じようとしている。しかしインターネットはインフラだ。生活のそこにある。これからもずっと。自分の足で稼いできたフィールドレコーディングにYouTubeから引き抜いてきたmp3は劣るのだろうか。劣る。と言い切りたいところなのだが、アップロードした当人が音楽として認識していない動画の音声ファイルを音楽としてパッケージする行為は十分すぎるぐらいに芸術の行為だと思う。”Music for YouTube”の音楽は数年前にでも発表されているべき。しかし、今の所それらしい運動はない。そんな悲哀を感じるrrr Gの二つの映像作品。大多数にとってどうしようもないものだ。しかし心地の良さがある。深夜に一人で、部屋を暗くして。YouTubeの関連動画で偶然見つけた、あの動画たち。無価値としていい。無価値なのが良い。実験はオナニーの行為であることが何よりも重要。大衆に響く必要はない。

7/15/2016

SIM MIX: #001 Diego Navarro ~ 'First Children'

Diego Navarro

 スペインはバレンシアのプロデューサーDiego Navarroは1991年生まれの才能溢れる若者だ。バレンシア工科大学が援助した視聴覚表現探査かつローカルの才能にフォーカスしたフェスティバル”ROOHM”の運営メンバーであり、アートや音楽イベントを多数開催するパブRadio City ValenciaではCYTL名義で"CU)LO"なるクラブ・イベントを主催している。〈NAAFI〉や〈Staycore〉といったコレクティヴやレーベルが中心になり作り出している現行のクラブ・シーンを、スペインの地からローカルを大切にしつつ捉えようとしている人物だ。昨年にはThumpにインタビューを受けており、Sentinelなど彼に影響を与えているであろうプロデューサーたちを自身の世界の名刺代わりに収録している。

 彼が提供してくれた「SIM MIX #002」は、SIMが日本のメディアだということを意識してなのか、アニメからのサンプリングだと思われる女性の日本語での会話から始まる。〈NON〉などの”オルタナティヴの主流”を絶妙に外したレフトフィールド色の強い人選でありながら、それらしい音のチョイスにまとめていることでモードに即しつつ亜流の提示をしている。日本からはYoshitaka Hikawaを選択しており、コンタクトを取らずとも帯同する”音感覚”を彼らが共有していることがわかる。



Tracklist:
  1. YDVST - artificial_MIND
  2. sarah wong - Missing in Seasons
  3. WEB://GH0ST - SHARPED RHYTMS FOR EXPLORING YOURSELF (EDIT1)
  4. Y1640 - SPIT INTENT
  5. Morten_HD x Tone Ra - Flex Test
  6. θfash - Yo No Lo Conozco (Bootleg)
  7. Yoshitaka Hikawa - Abyss X Pain remix
  8. SWAN MEAT - WAXXX POEM
  9. umurmurum - infantile loop
  10. Bru - Always Never (Barla Rmx)
  11. kadien - vtb
  12. Dasychira - Sanctuary
  13. H Y Y S X L - HUMAN 2052
  14. ayya ☭ - `•. As Devil Of Eternity To Nothing `•.
  15. Valerie Tricoli - V. As For The Crack
  16. Diego Navarro - ?
  17. Ramin Diawadi - Hodor

7/12/2016

n-t-s


'untitled' by n-t-s

'untitled' by n-t-s

'untitled' by n-t-s

'1' by n-t-s

'2' by n-t-s

 Alex Henkleによるプロジェクトn-t-sは、タンブラーとインスタグラム登場以降の真四角にクロップされた何でもない写真の羅列にスタイリッシュを見出す感性、そして特に珍しいものでも無くなった現在にそれらしいフォトグラフを展示しており、それは目新しくもないのだが、彼の描く無題の抽象画群は地下に静かに佇むことに相応の美しさを持たせている。Wassily Kandinskyに始まりJackson Pollockの画風に強い影響を受けた抽象画は無名の若者によるものとなれば同時に評価を見出すことが苦しい他ないのだが、写真、絵画、デジタル・アート、サウンド・デザインと、様々な方向に芸術的思考を発信しているのはなんとも応援したくなるではないか。



○ n-t-s http://n-t-s.it

7/11/2016

Yoshitaka Hikawa & Isamu Yorichika & Nozomu Matsumoto & Kenji Yamamoto ~ a part of mixtape



 Yoshitaka Hikawa、Isamu Yorichika、Nozomu Matsumoto、私の4人でのミックステープの製作を進めている。

 Yoshitaka Hikawaは〈The Astral Plane〉、〈CVLT〉、〈O Fluxo〉、〈Akoya Books〉などからのリリースやミックスの提供をしている東京のプロデューサー。〈Night Slugs〉以降=現行のクラブ・ミュージックの質感、ストリートの空気を持ち合わせながら、アートやアカデミックを滑らかに行き来する、いま最も活躍してるミュージシャンの一人である。先日にはJónó Mí Lóとのコラボレーション・ミックステープを発表。某所からのフィジカル・リリースが控えているとのことなので、またワンランク上にステージを移しそうだ。



 Isamu Yorichikaは山口県在住のプロデューサー/デザイナー。広島のハードコア・パンク・バンドjailbird Yでドラマーを務めた後、現在はtoiret status、xPhone tweeted hatena、yolichika、Toiret $egatus(Isamu Yorichika+Kenji Yamamoto)など複数の名義でエレクトロニック・ミュージックを製作中。炉心溶融した〈PC Music〉、インスタントCo La。キュートネスとポップネスをグリッチに歪め叩きつける。ドラムをしていたこともあってかビートの構成がとにかく異質。渡した素材が跡形もなく破壊されるのが様式美。



 Nozomu MatsumotoはEBM(T)のディレクターを務める東京〜横浜のアーティスト。EBM(T)ではTCF、Die Reihe、Patrick Kosk、Robin Mackayなどを招聘し、昨年11月から今年2月までの間に開催された『東京アートミーティングVI "TOKYO" − 見えない都市を見せる』では最年少キュレーターとしてJames Ferraroなどを扱う。サウンドデザイナーとしても活動しており、〈Akoya Books〉や〈Mitamine Lab〉などに作品を提供。存在そのものが「メディア」として機能している貴重な人材。バランス感覚が素晴らしい。



 割愛。ちなみにssalivaとのコラボレーションは〈Creamcake〉と〈Exo Tapes〉からリリースされる。



 全体の進捗としてはまだ半分にも到達していないが、今後もSimで情報を発信していこうと思う。続報を待て!

○ Isamu Yorichika https://www.instagram.com/x_t_h/

7/09/2016

dj lostboi ~ formenta eterna



 〈Bala Club〉などの子供達と形容するにはサイクルがあまりにも早すぎるが間違いなくそうであり、Elysia CramptonやTotal Freedomの作品群のアートワークから受けたであろう美的センスは思わず微笑んでしまうほどに模倣なのだが確実に次世代の息吹を感じる。新世代。次世代。毎年出てくるそれらの中で、dj lostboi、字の通りに間違いなく少年だ。恐らくぶっちぎりで若い。”90年代生まれ”が華咲いている今、信じたくないが”00年代生まれ”が頭角を現し始めている。公開している本人であろう写真には幼さがある。何より肌のツヤが凄い。若いっていいなぁ、ちくしょう。さて、彼は〈Bala Club〉のポストとして大きくなるだろうか。MalibuがPrimitive Londonに提供したミックス『The Doomed Life Of A Lie』ではLotic、Elysia Crampton、Rabit、Kamixlo、Uli K、Adamn Killaと共に並べられている。そうそう、この感覚なんだ。そんな期待も置いといて、「formenta eterna」のどこまでも遠い水平線の素晴らしさよ。こんなにも愛に満ちた曲を描く少年がいるなんて嬉しいじゃないか。近くに新しいアルバムを発表するとのことなので続報を待とう。
*年齢は確認していないので憶測です♡

7/07/2016

'Detroit Become Human' by Quantic Dream

Detroit Become Human

 『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』やエレン・ペイジを主役に起用し話題を集めた『BEYOND: Two Souls』の開発で知られるスタジオ〈Quantic Dream〉が開発中のソフト『Detroit Become Human』の最新トレイラーをE3 2016にて公開した。



 『Detroit Become Human』は人と外見や知能が変わらないアンドロイドが製造されるようになった近未来が舞台のタイトルだ。アンドロイドに仕事を奪われた者がデモを起こし、本来人に奉仕するはずのアンドロイドが何らかの理由で変異し、人に害を及ぼし始めた世界は美麗なレンダリングも相まって現実感を伴っており、説得力がある。

 今回のトレイラーでは、人質を取り屋上に立てこもるアンドロイド"ダニエル"と交渉するアンドロイド"コナー"に焦点が当てられている。トレイラーでは詳細は描かれてはいないが、制作元が語るところによると事件を解決にやってきたコナーは他の警官や特殊部隊の人間からアンドロイドということで疎まれており、全く協力を得ることができない。そのため、自分自身で事件を解決することになるのだが、事件の手がかりを探す中で元々ダニエルはその家庭に不在だった父親の代わりとして「子守役」を任されていたが、シングルマザーだった母親が恋人を見つけたことに伴って「子守役」が不要になったため別の家事役アンドロイドに置き換えられ、自身は廃棄(=殺処分)される運命にあったということが分かっていく。「仕事を奪った」と人から疎まれる一方、自身の権利に関しては声高に叫ぶことのできないアンドロイドの二重性は人工知能を生み出した人間の傲慢さを指摘しているとともに人間の主体性への問いを投げかけている。

 それは「これはわたしたちの物語」という宣言からも透けて見える。このゲームの世界でアンドロイドが抱える問題は今の我々が抱える問題でもあるのだ。例えば、2015年にパリで公開されたトレイラーでは同じ顔をしたアンドロイドが使い捨てタイプとして登場しているが、アンドロイドが不在の現在ですら主体性が剥奪され、人間が使い捨てられる事態は起きている。



 また、James Ferraroの『Human Story 3』やMichael GreenとJónó Mí Lóが共同で制作した映像作品『C V B 3 R W A R II. PROJECT DARPA』のように、昨今人工知能をモチーフにした芸術作品が注目されるようになっているが、これらが問いかけるのも人工知能の登場による我々人間の主体性の揺らぎである(『C V B 3 R W A R II. PROJECT DARPA』では人工知能が自らの判断でテロリストや人質の区別なく目標を殺害しており、そこに人間側の意思の介在は無いように見える)。



 〈Quantic Dream〉が制作ということもあり、『Detroit Become Human』が与えられた選択肢の中から自分が正しいと思うものを選び、物語を進めるインタラクティブなゲームであるということもまた重要だ。人間が人工知能側として選択をしていくということは人工知能への想像力を働かせるということであり、人間と人工知能の間に横たわる問題を一面的ではなく、多面的に考えさせる余地を与えている。

 拙ブログでも記したが、果たして人工知能が本当に人間を超えるのか、それは分からない。だが、人工知能を問いかけることはそのまま人間自体を問いかけることに繋がっている。

○ Quantic Dream http://www.quanticdream.com/

7/06/2016

概ねたか in "絵zra" #001 「2013年11月03日19時58分55秒」

'2013年11月03日19時58分55秒' (2013) by 概ねたか

 ”絵zra”は画家・概ねたかの作品をアーカイブするコーナー。第1回は「2013年11月03日19時58分55秒」。

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 概ねたか ・・・ 1987年生まれ / 鳥取県生まれ、在住 / 音楽家、画家 / 第93回二科展デザイン部B部門入選、第34回蒼樹展入選、第177・180回ザ・チョイス入選、第10回TIS公募金賞 / 2013年、アンビエント・レーベル〈Constellation Tatsu〉をパロディしたConstellation Botsu名義でミックステープ『湯熨すんぞNESCAFÉオメッと』、『ギャルちょれ〜〜〜〜〜〜!』をリリース。以降、同名義での活動を展開していく。2014年には近年の実験音楽の土壌を作った功労者Brad Roseのレーベル〈Digitalis〉より『萎びてられっか』でデビュー。2015年、YPYやgoat等で活動をする日野浩志郎が主宰を務める〈birdFriend〉より『ヤングっぺらい』を、アイルランドのアンダーグラウンドを代表するレーベル〈Tensmat〉のサブ・レーベル〈Nute〉より『ガバケツだもんで』をリリース。2016年、Assault Suitsが主宰を務め、日本のゴルジェ・プロデューサーHanali等が顔を揃える〈Flamebait〉より『ちゅざけんなッズベ公!!』を、ウクライナの〈H.V.R.F. CENTRAL COMMAND〉より『グビロヶおもスロいって・ぶあ!!』を、Good WillsmithのメンバーであるMukqsとのタッグを組み〈Suite 309〉よりスプリット『Miracle Hentai』をリリース。

○ Constellation Botsu https://twitter.com/c_botsu







7/03/2016

'Inside' by Playdead

Inside

 『Limbo』の開発で知られるスタジオ〈Playdead〉が、待望の新作2D・パズル・アクション『Inside』を発表した。E3 2014にて2015年上旬でのリリースをアナウンスしていたが、延期となっていた。以下はそのE3 2014にて公開されたトレーラー。



 まず、同スタジオの前作である『Limbo』について。『Limbo』は2010年にXbox Liveにてリリースされ、後にPCとPS3にも移植され述べ300万本を売り上げた、近年のインディ・ゲーム・ムーヴメントを代表する作品の一つだ。「行方不明になった妹を探しに行く」、というシンプルなストーリー。登場人物は一切言葉を発することはなく、世界は影絵かつ絵本を思わせるモノトーンであり、酷(むご)く美しい「死(ゲームオーバー)」がいたるところに転がっている。首が飛んだり、押し潰されたり、串刺しになったり。近年の表現技術の向上に即していたならば目を覆いたくなるようなゴア・シーンも、『Limbo』ならば不思議と心地良いものとなる。Andy RileyやEdward Goreyの作品のようなシュールやナンセンスをヴィデオ・ゲームで体験する、と言えば伝わりやすいだろうか。



 さて、『Inside』は先の通り発売延期もあり、5年という歳月を重ねて開発された渾身の作品なのだが、そのハードルの高さは〈Playdead〉にとっては問題のないものだったようだ。まず、今年のE3でリリース前に公開されたトレーラーを。



 私がこの映像を見て思い浮かべたのはアメリカのモダン・アートの巨人、Edward Hopperが1942年に発表した『Nighthawks』だ。『Nighthawks』はニューヨークの静かな夜に営まれるカフェの一場面を切り取った作品だが、この絵を見て感じる何とも言えない孤独や不安(私は左側の手間の男性に自分を重ねる)を『Inside』の予告から受け取った。『Nighthawks』が描かれたのは第二次世界大戦の最中であり、『Inside』は2010年代。一方は絵画であり、一方はヴィデオ・ゲームだ。前者が描きたかったのは、”「自由の国・アメリカ」の中で自分に迫る社会の重圧”だと考える。それでは、後者は?

'Nighthawks' (1942) by Edward Hopper

 『Inside』は形式としての『Limbo』の発展型である。前作と同様に”モノクロ”の世界でパズルを解きながら「死」に触れていく。違いというと、圧倒的に高品質になったグラフィックと、奴隷制度?人間を管理する工場?刑務所?が配置されたディストピアという世界設定、そして、『Nighthawks』の空間的な静けさだ。テクノロジーの発達を享受し、時代を先行する大企業のオフィスや工場には、数多の従業員が日々の業務に取り組んでおり、「毎日」が繰り返されていく。自分の仕事を必死にこなす中で、段々とフロアから光が消えていき、昼間の騒々しい環境から静寂に変わる。今日も残業か、と溜息をつく。時刻は23時を過ぎたところだ。
 『Inside』はよくある”ディストピアもの”の”不条理ゲー”ではない。社会に出た誰もが体験する、”都市の夜の孤独と疲弊”を歩くゲームだ。もちろん、本作はそんな日常を描いたものではないのだが、整列させられた人間と、人間らしきものが行進する・させられる異様に思える『Inside』の光景は、特別にゲームの中でのおとぎ話ではなく、都会の通勤ラッシュでも見ることは容易だ。全員が全員、スマホに吸い込まれている交差点での光景も同様である。『Inside』は『Nighthawks』の訴えるメッセージを受け取っている。
 本作のクライマックスは自身で確かめていただくとして、”あの”シーンはおぞましいとしか言いようがない。”あれ”の果てをあなたはどう考えるか。私は満員電車に詰め込まれる”人間団子”の人々のようにも映ったのだが。

7/02/2016

$3.33 ~ PASS

Monument: $3.33 (live at MOCA Grand Avenue, 1/21/16)

 ロサンゼルスの女性作家Celia Hollanderによるプロジェクト$3.33が、5月、新作アルバム『PASS』を自身のバンドキャンプよりデジタル・リリースした。本作はフランスの芸術家Pierre Huygheの映像作品『Shore』を演奏の背景に、コンテンポラリー・アート・ミュージアム”MOCA”が主催するコンサート・シリーズ”MONUMENT”に出演した$3.33のライヴ・パフォーマンスを録音したものだ。それに伴い同名のビデオ・クリップも公開されている。アパートの住人と思わしき人物が強風によって吹き飛ぶ大量の白いボードの様子を撮影している。嵐が近いようだ。オリジナルは10数秒であろう素材を反転やループさせ、VINEに転がるよく出来た映像、もしくはGIFのようなシームレスで滑らかな螺旋を『PASS』に与えている。日常に起こったちょっとしたイベント、嵐の前のなんとも言えない期待、増水した川や水路を目の前にした時の恐怖感と興奮がリンクした、あの感覚。何かが壊れる直前の高揚。
 Julianna BarwickやKaitlyn Aurelia Smith、Laurel Haloなどの現代の”優秀なインディ”の女性作家と共通項を持ちながら、$3.33はD/P/IやDean Bluntといったインターネットを演出のツールとして利用することに長けた、ヴィジュアル面に優れたアーティストにも通じるものがある(Alex Greyはその言葉から現在は距離を置いているし、Dean Bluntは煙に巻いているだけだけど)。YouTubeに無数に転がっていそうなPOVをスクリーンショットしたり、mp3をぶち抜いたり、そこにアートの有無を論じるのは既に3周以上遅い話題で、ナチュラルに彼女はMacBookを持ち歩いていそう。”インディ”、”実験音楽”のしがらみを上手く軽やかに避けながら、そしてWebにしがみつくことはせず、あくまでも生活の一部として。



7/01/2016

SIM MIX: #000 Kenji Yamamoto ~ 'The Sweet Smell / Japanese 80's New Age'

Kenji Yamamoto

 ある程度の支持を得ていたHi-Hi-Whoopeeを醜い形で壊してしまった私がこうして改めて”メディア”を謳うブログを開始することに我ながら嫌悪する部分があるのだが、表の舞台から逃げるように「くだらない」と自分に言い聞かせツイッターもブログも消し去り、選択肢を狭めた結果なのかますますサンプリング・ミュージックの魅力に没入し、創作に打ち込んだところ、思いの外、上手くいった。Wasabi Tapes、Djwwww、+you etc. どれも充実している。こんなことで”メディア”に対する距離を取り、満足したつもりでいたのだけれども、やはり私は...私自身がメディアとして機能すべきだと、またも自意識が肥大しており、2016年7月1日よりSimを開始する。

 Simはアート・マガジン。私の美学と哲学に基づいてマイペースに更新していきます。その挨拶として、80年代の日本のニューエイジとアンビエントで製作した「SIM MIX」シリーズのカタログ番号”#000”をどうぞ。

 Simを今後ともよろしくお願いします。